D.o.A. ep.8~16
――――そこは、小さな村の入り口。
すでにほとんど太陽が沈みかけて、夜闇が空を覆いつつあった。
「ここ…」
いくつもの素朴な民家には、ぽつぽつとあたたかい光がともされ、夕餉のにおいを漂わせている。
(知ってる)
ずっと奥のほうに、どっしりと存在感を示す、鐘のついた大きな建物。教会だ。
(俺はここを知ってる)
ゆっくりと見渡す。例え、多少暗かろうとも、間違えるはずがない。なぜなら。
(……ここは、ラゾーだ)
生まれ育った故郷を見間違うはずはない。ただ、こんな光景がありえぬことも、わかりすぎるほどわかっていた。
「どういう、ことだ」
現実には、もうこの村には誰もいない。あの忘れえぬ惨劇の夜は、信じたくなくとも厳然たる事実だ。
そう理解しているのに、手を伸ばしたくなる。我が家へ帰りたいと、望んでしまう。
知らず知らず、ライルは自分の家の前まで足を運んでいた。
彼が帰らぬ限り、この家は無人だ。家族は10年前、野盗の手にかかり、死んだ。
ああ。それなのに。窓から漏れるのは明かりではないか。人の気配がする。
痺れるような眩暈が駆け抜けた。
――――誰もいるはずがない。いるわけがない。いたらおかしいのだ。
――――誰かいるかもしれない。いるはずだ。いなければおかしいのだ。
現実と願望とがせめぎあって、一歩も動くことができない。
泣きたくなるような困惑の中、ライルはその場に立ち尽くした。
作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har