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D.o.A. ep.8~16

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魔術の光に照らされた洞窟内部を、意識を尖らせつつ進む。
魔物の姿は幾度か見かけたものの、そのほとんどが死骸となっていた。トリキアスの手によるものだろう。
彼とはどのくらいの距離があるのかはわからないけれど、もともとがさほど大きくない洞窟である。
走れば追いつくことは可能だろう。
役割上、接近戦型のライルがやや前を歩くのだが、そんな彼が不意に立ち止まった。

「何だ、何かいたか」
「…怒るなよ」
少し申し訳なさそうな顔で振り向いて、ティルが首をかしげた直後。

ぐう。きゅるるるる。

緊迫した空気をぶち壊すような音が鳴った。
「…腹が減ったんだよ」
「こんな時に…あきれた奴だな」
顔をしかめて睨むティル。彼の生理現象には先ほども苦しめられたばかりだ。
「5分…いや、1分でいい。栄養補給させてくれ!腹が減っては戦はできぬ!」
そう、常になく切実にせがむので、重いため息をひとつ。
一日水だけでも大して辛くないティルからすれば理解しがたい感覚ではあったけれども。

「それくらいなら許容するが、食う物がないだろう」
「大丈夫、心配無用!こう見えて朝、二人分の弁当作ってる」
ほっとしたようにそこらの岩に腰掛けて、腰に下げた袋から布に包んだ何かを取り出す。弁当らしい。
開くと、案外と具の凝ったサンドイッチが、3つ。
それらを、一刻を惜しむようにぱくつき始める。1分かからず平らげた。
さらに水の入った細長いビンを取り出し、蓋をねじり開けてぐいぐいと飲み干す。
ビンと包んでいた布を折りたたんでしまうと、フウ、と一息つく。
ティルは終始、奇怪なものを見るまなざしでみていた。
いつもの休憩時間中、ライルとリノンが弁当を持ってきて食べていたのを、横目で目にしたことがあった。
てっきりあれは彼女がつくった物だとばかり思っていたのだが。

「…ああ。リノンだめなんだ、料理。すごく体に悪いもんしかつくれないから。…しかも自分でそれに気づいてない」
視線から察して、ライルは言う。
しかしながら、どうにも、結構手の込んだ料理を作ることと、目の前の少年がうまく結びついてくれなかった。

「それよりさ、こんな時になんだけど……俺、お前に訊きたかったことが、」
「っ、…悠長に話している余裕はない」

ずっと胸に秘していた疑問。それを訊くのは今が絶好の機会だと口にしかけた言葉を、にべもなくティルがさえぎり。
「ちんたら話しているうちに、あの男と距離が開く」
視線をそらして、足を進めだす。
「な…」

思い返せば、彼と個人的に話せそうな機会は幾度かあったのに、すべてなんだかんだとうまくいっていない。
タイミングが合わないのだと思っていた。だから深追いはしなかった。
しかし、今の表情は。

(――――逃げてる、のか?)
彼は、もしかしたら、こちらの疑問の内容をさとり、答えることを拒んでいるのではないか。
そんな、淡いながらも幾度か抱いた疑惑が確信へと変わっていく。
もし庇っているのなら同罪だと、許さないと、いつか思った。
けれど今日この日、彼はリノンを助けるため、頭を下げてくれた。
信じたい。彼は少しクールで口の悪い、しかし根は義理堅くいい奴なのだと。
(ああ…、一体、あいつはお前にとっての、何なんだ)
ティルの歩みに併せて、魔術による光球も遠ざかっていく。
ともあれじっと悩んでいても、闇の中一人取り残される羽目に陥るだけなので、悶々としつつも後を追うほかなかった。


作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har