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D.o.A. ep.8~16

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「…おい、ちょっと」
ライルは呆然と、あてどなく呟く。

「―――こんなとんでもない数だなんて、聞いてないんだけど」

洞窟の周辺、前方はまさしく、魔物という魔物がひしめいていた。
木々に隠れて様子を窺っているだけなので、まだこちらの存在は悟られていないが、飛び出したとたん群がられて挽き肉にされる自信がある。
なにが、あくまで素人にとってはよ、だ、いーかげんなこと抜かしやがってあのオカマ少佐!―――と、ここにはいないユーラムをののしる。
素人であろうがなかろうが、到底、洞窟になど入っていける雰囲気ではない。
見た限りでは、この大陸に生息する魔物の殆どを確認できる。
数は見たところ100を超え、それだけでも手に負えそうもないのに、さらに洞窟の中にはそれ以上の数も潜んでいるかもしれない。
「あくまで情報は以前のものだから、目を放した隙に増えたのかもしれないな」
「いや、理由はなんだっていいけど…これじゃ、本来の五人がかりでも…」
無理だろう。いや、確実に不可能だ。
幸いトータスには、オークなどの、妙に小賢しく武器も扱うような、面倒な魔物は生息していない。
野獣系の力自慢バカばかりである。が、基本的にそれらとは1対1とか、少数相手でしか戦ったことはなかった。
そんな力自慢バカが、少なくとも数十体はいる。
「ど、どうする?」
「仕方ない。こんな有様だ。ちょっとやそっとの人員じゃ洞窟には入ることすらできないと、そう報告するしか」

と、そんなことを小声で話し合っていた時、風が吹き、ライルの鼻を葉がくすぐって、
「…へくしっ」
「!?」
くしゃみによりこちらに気付いた総勢の目が、標的を、定めた。

「馬鹿!」
「ご、ご、ごめん!」

責めても謝ってもどうしようもない。とにかく逃げるしかない。
何匹かの魔物が勢いをつけてこちらへ襲い掛かってくる。
「右足を一歩進めてしゃがめ!」
ティルが叫ぶ。
ライルは声に従った。襲いかかる魔物を目の前にしゃがみこむなど自殺行為だ、そう理解する前に。
右足一歩。しゃがんだ彼の頭上すれすれを、振り子のように巨石がゆく。
岩のトラップにもろにぶち当たった敵の頭が潰れた。鳴き声を上げる暇さえ、なかった。
「うひゃ…」
「走れ!」

森の中を駆ける。魔物たちが追いすがってくるが、エルフたちの細工を、ティルは熟知しているようで、利用しながら逃げた。
毒針、巨石に始まり、ボウガン、落とし穴、硫酸など、多種多様の罠がいたるところに仕掛けてあって、それにライルが巻き込まれなかったのは、もはや奇跡だった。
縦横無尽に全力で駆け巡ったため、道の悪さも手伝って、半時間を過ぎた頃から体力が限界を訴え始める。
基本的に振り返らないため、敵がどれほど罠にかかって死んでいるのかもわからず、緊張状態のまま走り続けるのだ。当然だった。

「てぃ、ティル、こ、このまま、じゃ」
「わ、かってる」
自然がつくったくぼみを見つけ、二人は息を努めて殺して潜む。総数どれほどのトラップが仕掛けられているかは知らぬが、かなり使っただろう。

「…ヘクト曹長が羨ましいや。今頃、親戚一同、楽しんでんだろな」
ぼやきながら、腰に下げた剣の柄を握る。だいぶん呼吸も整ってきた。次は戦うつもりだ。
ガサガサと土を踏む気配に神経を研ぎ澄ます。

「行くぞ!」
おのおの武器を構え、勢いをつけて飛び出した。が――――

「…あ?」

我ながら間の抜けた声が出たと思った。だが、本当に拍子抜けしてしまったのだ。

「おや、―――これは運がいい。まさかこんな場所で誰かにお会いできるとは」

足音の主は、魔物ではない。
人間だった。


作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har