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D.o.A. ep.8~16

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Ep.8 序




「我が手よりいずる力よ、のがれざる黒き円環となりて彼者を封じよ!」

ロロナの呪縛系魔術の詠唱が響くと同時に、漆黒の輪が魔物の手足を縛りつける。
巨体は転倒するものの、ぐぐ、と力を入れると、その輪は砕けちった。
脱出したそれは、逃走を再開する。

「そっちに行ったぞ!逃がすなよレオグリットっ」
「イエッサーッ!」

いまやすっかり口に馴染んだ受け答えをしながら、ライルは、全力で走る。
巨体を揺らして逃げる魔物と距離をつめると、疾走の勢いをつけて跳んだ。剣を振りおろし、背後から真っ二つにする。
そのまま、ばったりと倒れた体がひくひくと痙攣していた。

「やったぞ、ヘクト軍曹!」
そう笑って、上司を振り返るライルに、物陰から姿を現したもう一体が牙をむく。
咆哮を上げて飛びかかってきた気配に反応する、が、間に合わない。なんとか身をかわすが、左腕を鋭い爪が抉っていく。
「ライルさん!」
「レオグリット!」
「ああもう、バカな子っ」

「爆光矢(イクスプ・アロー)」

リノンらがライルを助けるべく駆けるが、そんな彼女らの間を何かが物凄い速さで突き抜けていった。
それは、左腕を負傷しながらもなんとか体勢を立て直したライルが立ち向かう魔物へ直撃する。
「!」
それは、光、に見えた。
と、認識したところで、その魔物が、とつぜん弾け飛ぶ。
当然、至近距離にいた彼は、肉、血液、内臓のフルコースを真っ向からぶちまけられた。

「………」

リノンとヘクト、遅れてロロナが彼のもとにたどり着いて、その惨状に眉をしかめる。
「うう、ケモノくさっ…」
「…ひどい…」
「だ、大丈夫か?」
うつむいてブルブルとこぶしを握りしめながら震えるライルを、ヘクトが覗き込む、と。

「……、この…っティルバルトオオォ!お前またかああぁあ!!」

かなり後方にて、残心の済んだ涼しい顔で立っているティルバルトへ、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
こうして魔物の肉片を浴びるのは、もうこれで四度目になるのであった。









帰る道すがら。
見ている方が申し訳なくなってくるほどの悄気返った顔で、ロロナは頭を垂れている。

「……あたし、役に立てなくて…ごめんなさい」

「謝ることなんてないわ」
「あたしなんて…拘束術(チェーニング)しか能がないのに…それもしきれずに、あげく咄嗟にライルさんを助けられないで…」
「でもあいつ、抜け出したあと動きが良くなかったわよ。縛り付けたとき骨持ってったのかも」
「…そう、でしょうか」
「そうそう!ロロナちゃん、応用して関節技練習してみたら?魔物相手はちょっと厳しいかもしれないけど、対人戦なら…」
「イアルバーク、きみの魔術はじゅうぶん役に立っている。気に病む必要はない」
「そうよそうよ、呪文もかっこいい…と思うしね!」
「でも呪文はのがれざる、って言ってるのに、けっこうのがれられちゃってるな」
「すみません、えらそうなコト唱えてほんとうにすみません」
「ライ、空気読みなさい!」

ロロナを慰める輪から一人だけ外れている者がいた。いうまでもなくティルバルトである。
彼は馴れ合いを嫌っていた。
班の一員として、戦闘では一応協力の姿勢は見せるが、先のように他人に対する配慮が欠けていた。
必要最低限しか話す気もないらしく、無論話の輪に加わることもない。
協調性のかけらもないが、弓兵のエースと呼ばれるだけあり、狙いは正確で無駄矢もなく、さらには光魔術を使う上、即席の罠作りなども行えるので、
いかに我が道ゆこうとも第24班にとってなくてはならぬ男なのだ。
ただありがたいのは、あくまでも常に輪から外れているために、こうしてよく落ち込むロロナに辛辣な追い討ちをかけたりもしないことであろう。

ラゾー村でのあの一件以来、彼はライルと個人的に話していない。
彼は、自分のことを何一つ語ろうとはしなかった。
話しかけても、無視されるか、いいところ適当にあしらわれるのである。
よって、あの手配書の人物と、ティルバルトがいかなる関係にあたるのかも、いまだ憶測の域を出ない。
仕事はできる男だった。報告書はいの一番に仕上げ、何の用事があるのやら、さっさと出て行ってしまう。
初めて給料を貰った祝いに、班のみなで食事へ行ったときも、やはり彼だけは不参加だった。
嫌な奴、とはいかぬまでも、ライルの中で彼は、どちらかといえばそちら寄りに定まりつつある。



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作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har