たまごとハサミ
「うん、習ってきちゃった。顔馴染みの住職さんにお願いして、習ってきたの。事情を説明したらタダでお経上げてくれるって言ってくれたんだけど、断っちゃった。自分でお経あげたほうが、あの子だけじゃなくて、私の慰みになるなって」
いつも予想の斜め上をいく、不思議なことを思いついちゃう人だ。千佳が誰にも頼らずに解決しようとすると、いつも変な方向に向かっていく。
「あの時ね、このゆで卵を入れて、けじめをつけようと思ったんだ。あなたが食べるもよし、捨てるもよし、残してくるもよし。でも蓋を開けたらひよこが出てきた。私、これを当分あの子だと思うことにしたの」
「オレが怒るとかは考えなかった?」
実際にはなかったが、わけの分からなさに話が拗れて溝が深まることだってあったかもしれないのに。
「だって、喧嘩したって仲直りすればいいでしょう?」
ニッと歯を見せた笑顔が眩しい。
準備の整った千佳が、ひよこの収まった額とエコー写真に向かって正座している。
「私が人差し指をさしたら、あなたはちーんて言ってね。それ以外はぽくぽく言ってて」
「木魚とかセルフなんだ」
千佳の可愛らしい読経に聞き入りながらぽくぽく言って、時々指される度にちーんと言う。和風ボイスパーカッションの気分になりながら、ゲームのアイディアが閃いた。可愛い声でお経をあげる、住職系彼女の恋愛ゲーム。今度提案してみよう。