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夢と現の境にて◆弐

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やばいな…

戸締りの確認をすると言って狭霧の傍を離れた俺は何か思わぬことを喋り出してしまいそうな口を手で覆い隠しながらうろうろと家の中を歩き回った。もう既に戸締りどころではない。風呂上がりの狭霧を見るだけでこれだけ危ういというのに、傍でずっと話すなど恐ろしい拷問だ。それに加え客間であんなことがあったのだ。平気でいられるわけがない。

でも、それはきっと俺だけなのだろうな…。先程の狭霧の様子を見て重い溜息が出た。脈無しにも程がある。俺だけまるで意識しているみたいでなんだか…ショックなんだろうな、多分。がっくりと壁に背を付け床へとずるずると座り込んだ。悔しい。思いが届かないことがとてつもなく悔しい。思いが届かぬまま、身体を触ったことにも今更ながらどうかと思う。不可抗力とも事故だったともいえるあの状況でも、互いの本心は知れない。

自分の手を重ね頭へと一度、強く叩きつける。
これだけ悩むのには訳がある。俺の問題ではなく、狭霧の問題だ。俺のこの気持ちが狭霧の、あの悪夢へ、人の命へ、辛さへと立ち向かい、耐え続ける姿に邪魔になるとしたら。俺が言える訳がないのだ。枷をはめてはいけない。止めてはいけない。

せめてもの願いだが。両想いなら、支えになる。

確証のない願望が俺を唆すかのように頭へと浮かぶ。バカな考えだ。だけど、もしかしたらという希望が俺のこの気持ちを冷めさせない。いや、振り向かれなくても冷めたりしない。

もう二階に上がって寝ているだろう狭霧を思う。
俺は会った事などなかった。

自分よりも辛い事を背負う人間に。
しかし、決してその口から延べられることは助けでも自分の不幸話でもない。死にたいとかもういやだ、などの疲れ切り何もかもを諦めたような廃れ切った言葉でもない。開き直り空元気を見せる姿でもない。
では、なんだろう。何を、彼は見せている?

日常だ。変わらぬ自分。

普通の人間と変わらない。親がいて、家庭があって変わらない一日を過ごし変わらない毎日を過ごして生きているだろう。そんな人間の姿。学校では、そんな姿だったはずだ。

周りから見てもおかしなところがない、おかしな言動がない。
身体が弱そうなところを省けば狭霧は、普通と変わらないただの学生。

そんな姿を振舞っているというのだろうか?
自分がおかしく見られることが辛いあまりに、自分を守ろうとし、色んな事を我慢して隠しているとしたら?

ただ悪夢や予知夢など見ても、忘れて実は大丈夫なんだ、と言われたら。信じるだろうか?彼の平常な毎日や姿を見れば大体の人は頷くだろうか?

違う。周りが鈍感なんじゃない。愚かなんじゃない。
狭霧がそうさせている。そう見られるのが嫌だから、普通じゃないと思われたくないから、異端者と呼ばれたくないから。

寒気がした。ある意味暗い廊下に座り込んでいるのだ。夜は少し冷える。だが、この寒さは怖さで感じているのだ。膝を折り体育座りをすれば小さく丸まった。
狭霧は、強い。誰よりも。そして誰よりも自分が壊れやすく弱い者だと分かっている。他のどんな人間よりも、自分が何者なのか周りからどう見られるのか、見られているのか悟っている。例え自覚してはいなくとも、周りがそうさせたのだ。

そんな考えに行き着いたとき、一つの決心が俺に芽生えた。
そんなこと、させない。冷え切った身体を壁を頼りに立ち上がる。せめて、いや俺だけでもいい。狭霧に、そんな我慢はさせない。させたくない。
もっと具体的な答えが浮かんだ。思わず凄い願いが生まれてしまったと自分で笑ってしまうほどに。俺は

狭霧の 特別な人間になりたいのだ。

もし、狭霧の邪魔になるとしたらすっぱり諦めたと言ってしまおう。だけど、それは確かめてから。俺は、言わねばならなくなった。あいつが、色んなことに我慢を虐げられるなら、俺はそれを取り去って、有りの儘の狭霧と会い、話してみせる。
作品名:夢と現の境にて◆弐 作家名:織嗚八束