すとーかー!シリーズ
すとーかーはあきらめない!
「待って!トモヤ君!その体操着を僕に……!」
「きめえええ!もうお前いい加減にしろマジで!追い掛けて来んな!」
今現在、俺は校内を全力疾走していた。
何故体育の授業が終わったあとにまた汗をかかなければならない?せめてジャージだけでも脱いでおけばまだ走りやすかったかもしれない。いや、駄目だ。それだとジャージが犠牲になってしまう。
それにしてもコイツ、柔道部なだけあって無駄にスタミナありやがる。今はまだ足の速さでどうにか追いつかれないでいるが、このまま続けていたらその内捕まってしまう。
それは何としてでも避けなければならないだろう、俺の体操着の為にも。
「トモヤ君!」
「!?」
やばい、考え事しながら走っていたせいでどうやら距離が縮まっていたらしい。予想以上に近い場所から声が聞こえてきて、非常に焦った。どうしようかと考えていると、窓越しに中庭が近くにあることが確認出来た。今俺のいる場所は…2階。最早迷っている暇は無い。
俺はすぐさま窓から飛び降りた。
「トモヤ君!?」
無事に着地成功、しかしそんなことはどうでもよく、俺は斉藤の声を背に中庭を突っ切って逃げた。隠れられる場所を探し、奴から逃れるために次の授業はサボることに決めた。どうにか隠れられるだろう場所を見つけ、やっと落ち着けたと息を吐く。汗まみれの体操着が気持ち悪いが、仕方がない。
……嗚呼、もう何だかものすごく疲れた。寝よう。
そうして俺は暫く眠っていたらしい。『パシャッ パシャッ』という音で意識が覚醒した。
「………お前、何やってんの。」
目を開けると、そこには予想通りカメラを構えた斉藤の姿が。
「え…それは、トモヤ君の寝顔を──」
「いや、やっぱ最後まで言うな。もう想像ついたから。」
斉藤に見付かってしまった。しかしもう逃げる気はとっくに失せていたので、斉藤に2メートル以上離れてもらった。何でそんな嬉しそうな顔をしてるんだ、俺の気分が下がるだけだからやめてくれ。
「……なあ。お前、本当に俺が好きなのか。」
何故突然、こんなことを訊いたのか俺自身も分からない。しかし斉藤も、俺の突然の質問にひどく驚いたようだった。
「本当も何も、本気だよ!だってトモヤ君は──。」
それからは俺がいかに素晴らしくカッコイイ人間かを斉藤視点で語られた。奴が語った俺は王子様のような人物像になっていて、思わず笑ってしまう。女に言われるならまだしも、男に言われても全く嬉しくない。
「…馬鹿だな。俺が実際、そんな優しかったらお前にもっと優しくしてるだろうよ。」
そう言うと、斉藤はニヤニヤ顔を引き締め、今まで見たこともないような無表情を見せた。強面なだけに妙な迫力があって、内心少しびびったのは秘密にしておきたいところだ。
「そんなことない。トモヤ君は、優しい。」
斉藤は、自嘲気味に笑った。
「───俺の話を、何だかんだで聞いてくれるだろう。」
その言葉は余りにも小声過ぎて、俺の耳に届くことはなかった。ただ、普段の斉藤らしくないことだけは分かったので、そこには触れないでおく。変に踏み込んでややこしいことになったら面倒臭いからだ。
「………。」
俺は無言で立ち上がり、歩き出す。
「ト、トモヤ君、何処行くの?」
「更衣室戻んだよ。……おい、俺の制服に何もしてないだろうな?」
すぐにいつもの斉藤に戻った奴は、俺の指摘に大げさなほど反応した。
「ももももちろん!ずっとニオイを嗅いでたとかそんなことするわけないよ!」
よし、今日はこのまま荷物持って帰ろう。
俺は、寝ている間にかけられていた斉藤のブレザー(無駄にでかい)に礼を言う事も無く、再び歩き出した。
fin.
作品名:すとーかー!シリーズ 作家名:kei