すとーかー!シリーズ
すとーかー!
『今、これを読んでいる貴方に告白します。
僕は貴方が好きでした。…いえ、そう言ってしまっては嘘になってしまいますね。僕は現在進行形で貴方が好きです。初めて貴方と会った入学式、僕の目の前に座った貴方を見た瞬間、「嗚呼、僕はこの人と結婚するんだ」と思いました。まさにこれは運命としか言いようがないでしょう。
この心臓の高鳴りはいつ収まるのか全く分かりません。僕をこんなにしてしまうなんて、貴方は何て罪作りな人なのでしょうか!貴方を見るたび鼻血が垂れてくるのも、貴方が体育で活躍する姿をみると僕の息子と慎ましやかな穴が疼いて仕方ないのも全部全部、貴方のせいです。
責任をとって、今はいているパンツを僕に下さい。もしくは僕を抱いてくだ──』
俺はそこまで読んだところで、この気色悪さ満点の手紙を破り捨てた。ここまで読んだだけでも、譲歩してやったと思わないか。なにしろこの手紙、あと5ページぐらい続いているんだぞ。全て読み終わったら最後、俺はあまりの気持ち悪さに精神を崩壊せざるを得ないだろう。
この手紙には魔が潜んでいる。ストーカーという魔が。
それにしてもこの手紙、突っ込み所が多すぎる。まず「結婚」?日本では同性愛結婚はできないと知らないのかコイツは。あと「心臓の高鳴り」って何だ、それを言うなら「胸の高鳴り」じゃないのか。心臓が高鳴るなら病院へ行く事をおすすめする。
……後半?その部分に関しては、ノーコメントということにしてもらいたい。
そして俺の目の前にいるストーカー、この手紙の差出人は俺に破られた手紙を「嗚呼…!トモヤ君が触った手紙…!」と鼻息を荒くして集めている。余りの気持ち悪さに眩暈がしそうだ。
「…おい。」
「!な、何何何!?」
「うっわ、お前そんな近寄んなきめえ!」
このストーカー、その名も斉藤はあの手紙の気持ち悪い部分を除いて見れば普通の素朴な少年に見えるかもしれない。しかし実際の斉藤はというと、身長190cmの上に柔道部所属の賜物か身体はムキムキの強面だ。ちなみに俺は172cmサッカー部所属。自分で言うのもアレだが、俺は結構顔は整っている方だと思う。まあまあ告白されるほうだから。
そんな俺に何故かコイツは惚れたらしく、入学式後に教室で「俺を抱いてくれ!」と叫ばれて以来、クラス公認(最近は学年公認になりつつある)のストーカーになってしまったのだ。友人たちは完全に面白がるし、クラスの女子は見た目とっつきにくい斉藤の発言をドン引きするどころか親近感がわいたらしく最近では斉藤の味方をし始めている。
俺が若干女性を信じられなくなるのもしょうがない事態だろう、これは。
「いいか、とりあえず俺の半径2m以内には近付くなよ。其処にいろ。…で、その手紙は何なんだ。」
「宮野が『ラブレターは効果ありだぜ!』って言ってたから書いてみたんだ!」
どう?どう?と期待に満ちた目で俺を見てくる斉藤。いや、お前さっき俺が目の前で手紙破ったの見てなかったのか。明らかに効果なしだろうが。
しかしなるほど、元凶は宮野なわけだな。決めた、後で5発ぐらい殴ろう。
取り敢えずは今この状況をどうするかだ。非常に悔しいことに友人に嵌められ俺はコイツと2人きりでいるわけだが、さっさとこの教室から出て家に帰りたい。家がこんなに恋しいと思ったのは初めてだ。
「俺、帰るから。じゃあな。」
「えっ、ええ!?帰るの?じゃあ僕も一緒に…!」
「馬鹿かお前一緒に帰るわけ無いだろ、俺が教室出てから1時間後に動け。」
「そんな!トモヤ君と一緒に帰れる機会が!」
「安心しろ、これからもそんな機会は一生ない。……あー、ほら、この俺の飲みかけのペットボトルやるから。」
本当は宮野から強奪したペットボトルだ。俺は一口も口をつけていない。しかしコイツには効果抜群だった。
「ほほほっほほ、ほ、本当に!?あっ…」
たかがペットボトルごとき(しかも偽物)で股間を押さえた斉藤に絶対零度の視線を送りつつ、俺は足早に教室から出て行った。
……俺、その内ノイローゼになるかもしれない。病院でも探しておくべきだろうか。
fin.
作品名:すとーかー!シリーズ 作家名:kei