ふしぎにっき
3.葬儀
ある夜、僕とMとTはファミレスで飯を食っていた。
その一週間前にMがS県にある実家に帰っていたこともあって、話題はMの急な帰省の話になった。
「何かおもしろいことはあった?」と尋ねる僕に対し、Mは無理やり作ったわざとらしい表情で「葬式に出ただけ」と答え、その年一反木綿を僕ら三人が探しに出た旅の話に移った。
「一反木綿は見つからなかったのにさ……」
「のに?」
「ちょっとあったんだよ」
残りのコーラを飲み干して真面目な顔つきでMは葬儀での出来事を話し始めた。
S県の某所にてMの親戚の女の子の葬儀が執り行われた。
享年16歳。
死に方が死に方だっただけに、小ぢんまりとした会場にごく近しい親戚だけが集まった。
葬儀の内容がどういったものだったかまではわからないが、その葬儀では棺の中に親族の手によって花を入れてあげるという場面があったらしい。
棺が開けられ、中からお気に入りの洋服に身を包み横たわる少女が現れた。
少女の周りに親戚が集まり、頭の近くには家族の手によって、彼女の好きな花と彼女も持ち物が置かれる。
MやMの家族は少女の足元近くに花を添えていた。
その最中にふと視線を感じてMは少女の頭の方角に顔を向けた。
すると先ほどまで確かに安らかに眠っていた少女の目が見開かれ、Mの方を見ていた。
Mも普段から幽霊の類が見える人間ではない。
目の錯覚だと思いこみつつも横たわったまま目だけで無表情にこちらを見下ろす少女から目が離せずにいた。
「M君は違う」
どこからか少女の声が聞こえてきた。
何が違うのか。
疑問に思っているMが瞬くと、すでに少女の瞼は閉じられ、そのまま二度と少女の目が開かれることはなかった。
「それだけだったら、俺の勘違いで済む話なんだけど、家に帰って親父も同じこと話すんだよ。
お花を添えている最中に目が合っておじちゃんは違うって言われたって。
俺も見たって言ったら、兄貴も実はってなって。おふくろは見てないらしいけど」
実に不思議な話だが、僕もTも面白がることはできなかった。
特にMが何気なく発した一言を考えると。
「もし『M君は違う』じゃなくて、まさに俺を探していたとしたら……どうなってたんだろう」