真夏の夜の夢
6.
「…それが今やこれやもんな!」
剛がおあずけをくったような顔でブウブウ云う。
「はん、お前の成長が遅いだけや。この万年欠食児童」
高校2年の夏。二人はまっすぐに成長した。剛は大きな瞳に笑顔もそのままだが、
いかんせんやせぎすのままで頭一つぶん背丈も光に離された。光は美しい容姿は変
わらずだが女性と見間違うことは今はない。頑健で長身、眼差しは氷のように冷た
く鋭い。人付き合いは決して上手くはなかったが剛とだけは饒舌に話しあってい
た。
「詐欺やでマッタク…。ま・ええわ。おかげさんで今年の夏休みもグアムの別荘や
し、なにより、これ! スイカやがなスイカ〜〜!一個まるごとオタマでスイカ。
わいの永年の夢やったんや〜っ!」
感涙にむせんでいる。本当に嬉しいのだろう。まさに「花より団子」だ。
「――剛お前、もーちょっとましな夢ないんかい? 見てるこっちが恥ずかしゅなる
わ」
抱え込んでスイカを貪り始めた剛にはもう何を云っても無駄である。
「ん、光のぶんもあるしいいやないけ。ところでお前、なんで日焼けせえへんの?
特異体質やなぁ。シロヘビやシロヘビ」
「ほっとけ! わいはええんや、喰いたいモンなんか…」
(わいが欲しいモンは、みんなお前がくれたんや。剛、お前が…囚われの、お姫サ
ンを助け出したあの日にな。)
異国の地にも間もなくあの日と同じ、二人で見た夕焼けが訪れる。あの日と変わ
らぬ二人を夜の闇がつつむ。長い夢を見ていたかのように光はゆっくりと延びをし
て、剛のもとへと歩いていった。
おわり