D.o.A. ep.1~7
たおやかな薄い体だが、それは間違いなく、男だ。
薄暗い中でもわかる、瞳孔の細い、猫を髣髴とさせる金の眼が、彼を睥睨している。長い耳はエルフのものだ。
「誰、だ」
見たこともない男に警戒しながら立ち上がる。
「初めて見たけど、けっこう似てるね。驚いた」
質問と全く関係のない言葉が、涼やかな声で紡がれる。
「……これは、あんたが、やったのか」
「わかってるだろ、僕以外に誰がやったと思うの」
「あんたは何者だっ!?…なんで、なんでこんな酷いことを!」
「酷い?そうかな。なら、今どんな気持ち?」
猫のような目が細められる。笑っている。―――ライルの中の理性がぶちきれた。
「ふざ、けるなあああぁっ!!」
抜き身の剣を携え、許しがたい男へと疾走する。
男が手を上げたのが見えると、刃に、シュルリと何かが絡んだ。蛇のような不気味な感覚に緩んだ手から、剣が引っ張られ、奪われた。
奪われた剣は男の斜め後ろ辺りに放物線をえがいて、刺さる。
彼は、鞭を手にしていた。嫌な予感はしたが、勢いは止まらない。殴りかかる。
「…おかしいな。まだ、足りないのかな」
また、意味のわからないことを呟いた。その鞭がライルの手首に絡む。鞭に締められているのに、腕からは血が噴き出した。
怯んだ彼の胴に鋭い回し蹴りが叩き込まれて、同時に鞭が手首から解けると、体が吹っ飛んだ。
水平に飛んだ体が、隅で積みあげられた予備の椅子に突っ込む。
「う、う…」
気絶しかねない痛みにうめく。破損した木製の椅子があたりに散らかった。
顔の輪郭に沿って、幾筋か生温かいものが垂れてくる。
「く、う」
ふらふらとしながらも何とか体勢をたてなおす。着いた手の平に尖った釘や木片が突き刺さるが、気にしない。
なおも二本の足で立っている彼に、男は少しばかり呆然とした。
「意外としぶといね」
口笛を軽く吹く男に、どうしようもなく腹が立って、癇に障って、悔しくて。一発殴らなくてはおさまらない。
血まみれの手を握りしめ、地を蹴る。
「でも、まだ」
ヒュン、と鞭がしなり。
その一瞬後、なぜか斬られていた。
「え」
どういうことなのか。わからないまま、意識が沈んでいく。
暗くなってゆく視界の端で、男はやはり、笑んでいた。
作品名:D.o.A. ep.1~7 作家名:har