D.o.A. ep.1~7
Ep.3 午前
何もない。
ただ闇が広がっている。深い深い黒だ。
自分が消えるような、恐怖を覚える。
手を伸ばしても、それは空を切るだけだ。そもそも、ここに空という存在すらあるのか、わからない。
何もないような気がする。永遠の虚無。
走る。
走り出すと同時に、得体の知れない何かが自分を飲み込もうと追いかけてくるような脅迫感に襲われる。
必死に走っていると、何かに躓いて体が宙に浮いた。そしてそのまま、倒れこむ。
(あ…?)
―――ガキはどうする。
(や、野盗…)
目の前に、下卑た笑いで自分を見下ろす男が見えた。
―――好きにしろ。
冷たい冷たい瞳が細められる。そして、家族を次々と殺していったあの刃が、月光を反射する。
(…っ、来るな、来るな!)
声を上げて手を突き出した瞬間、破裂音。
あの野盗たちが自分の下で息も絶え絶えに醜く這い蹲っている。
返り血を浴びた自分が、遠くでうすく笑っている。鏡のように見えた。
その自分は、ライルをせせら笑う。
(…俺が…やったのか)
――――ずっとずっと、こんなこと夢見てるんだな。
(!)
――――強くなって、奴らを圧倒して、見下ろしたいんだ。
(いや…違う。大切な人を守るためだ。誰かを守り続ける、そんな生き方をするんだ)
――――騙されながら生きてるのはそんなに楽?
(騙されて…?何を言ってるんだ。この生き方は、あの日、自分できめたんだ)
――――自分で決めた? おめでたいね。 …よく思い出してみな。
(なにを? …お前、何を知ってるの?)
――――さあね?
鏡の姿が歪んだ。そこには、見たこともない男がいる。
それなのに、それが自分だとわかってしまうのは何故なのだろう。
この世の全ての負が、形となって現れたような自分。
恐らく自分とは似ても似つかない、その男の顔に、水面へ小石を落したような波紋が広がり、その波紋からそれが実体となり姿を現す。
目の前で、吐き気のするほど自分に似た、だが笑うほど似ていない男の目が細くなった。
(…誰だ)
男はこちらに向かって、手を伸ばし。
――――俺は、■■■■。
作品名:D.o.A. ep.1~7 作家名:har