夢と現の境にて
―――壱, 悪戯な夢
｢あっつー……｣
ガサガサと揺れるゴミ袋を両手に、校舎裏に向かい重い足取りを進める。夏休み直前になってまでもあるこの部活を恨めしげに思いながら、汗ばむ手に食い込む袋を何度も持ち直した。
彼が今嫌々取り組んでいるのは、帰宅部同然と言われているリサイクル部の仕事であった。週一の活動であるその部だが彼は毎度毎度それをサボり、ついに先生にそれがバレれてしまった。そして、その結果がこれであった。
(一人で学校内のゴミ拾いと草むしりとか…)
無理にも程がある、と暑さか嫌気か分からない頭をすれば漸くゴミ捨て場が見えてきた。もう一息だなとペースをあげて校舎の角を曲がると、不意に何かが目の端を掠めた。
(足…?)
立ち止まって視点を変えるとやはり見えたのは人の足。ゆっくりと近づけば校舎に凭れ掛かって男子が一人、ぐったりとした様子で眠っていた。丁度校舎の影で木陰になっているこの場所は他と比べて少しひんやりとしていた。きっと休んでいるんだろう。
そう思うとそこから離れ直ぐ傍にあるゴミ捨て場へゴミを片付けた。ここまでずっと持っていたため腕が軋むように痛い。ふぅ、と軽く息を吐くと足早にそこを立ち去ろうともと来た道へと歩き出した。早く帰ってアイスでも食いたい。
が、角を曲がろうというところでなんとなく足が止まる。…もしかしたら日射病か何かかもしれない、と良からぬ事を考えてしまったからだ。
それ以上は考えるよりも先ずは行動だろうという様に、凭れ掛かる男子へと方向転換し、歩き出そうとした時だった。ぐったりとしていた男子が微かに身じろぎをした。あ、生きてる、と死んでいる前提を考えていた呑気な自分に内心苦笑しながらそのまま見ていると、突然、こっちを見た。
何だ？と思うよりも速く、弱っていたことなど感じられぬ様な動きで此方に走ってくる、そして思いっきり突き飛ばされた。
(…は？何…)
ガシャンｯ!
何かが割れる音が耳に響く。が、それよりも受身も取れぬまま大きく地面に尻と背中をぶつけた箇所が痛い。小さく呻きながら頭を上げると、自分の上には先ほどの男子が乗りかかっていた。そいつは苦しそうに肩を上下させながらのそのそと身体を起し、後ろを振り返った。何かを確認したかの様に今度は俺の方を向くと、ハ～ッと長い息を吐いて｢間に合った…｣と小さく呟いた。
…間に合ったって
嫌な予感がした。俺はまだ半分乗りかかっている相手を気にも留めず、上半身を起こして前方を見た。そこには粉々に砕けた花瓶があった。先程の音はこれだったのか。
が、翌々考えればそれはさっきまで自分が立っていた場所だ。つまりそのままそこにいれば、これは自分の頭に直撃していた。ぶわっと背中の汗が噴出すような感覚。しかしそれは決して熱さで出たものではないと自分が一番よく知っていた。
｢…大丈夫か?｣
ここで漸く、口を開く男子。そう聞いておきながら顔色が悪い。やはり具合がわるいのだろう、見た目からしてあまり体力のありそうな姿には見えない。こんな身体でよく自分を突き飛ばしたものだと感心するが、ここでもう一つおかしな点に気づいた。
｢お前…｣