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ラベンダー
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novelistID. 16841
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔-ザリアベル再びー~

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小学1年生の正樹は、落とした箱をぼんやりと見つめていた。

(…どうしよう…)

体が震えた。今日、学校で「家にある珍しい物」の発表会があった。正樹は、ずっと家に代々伝わっているという小さな「壺」を持って行った。
重いものじゃないので、親も快諾してくれたのだが…。
発表が終わった帰り道、正樹は両手で持っていた壺の入った箱を、車が傍を通り過ぎたことに驚いて落としてしまったのだ。
落とした途端、壺の割れた音が聞こえた。

…茫然と立ち尽くしていると、同級生の海斗が通りかかった。

「!?…どうしたの!?落としたの!?」

海斗が驚いて正樹に言った。正樹はうなずいた。とたんに涙が溢れ出てきた。

「…帰ったら…怒られる…。」
「!!」

海斗は落ちている箱を見つめた。
そして、黙ってその箱を持ち上げ、揺らしてみた。…がちゃがちゃという音がした。

「……」

2人はしばらく黙っていた。正樹は泣きじゃくっている。海斗はふと辺りを見渡した。
そして、正樹に箱を手渡しながら言った。

「…僕がぶつかった事にしようよ。」
「!?え!?」

正樹は驚いて海斗を見た。

「僕がぶつかって落としちゃったってことにすれば…怒られないかも。」
「でも…!」
「僕も一緒に家に行くよ。…一緒に謝ったら、ばれない。」
「…でも…海斗君…そんなことして、お母さんに怒られない?」
「…僕は怒られ慣れてるもん。」
「!!」
「さ、行こう!…ほら、泣きやんで。」
「う、うん!」

正樹は海斗と家に走った。

……

「まぁーっ!」

玄関先で頭を下げる2人に母親は思わず声を上げた。

「…僕が急いでて…走ってたら、正樹君にぶつかって…ごめんなさいっ!」

そう言う海斗の隣で、正樹も箱を持ったまま頭を下げている。2人ともぎゅっと目を閉じていた。

「…仕方ないわねぇ…」

母親のその言葉に正樹は思わず顔を上げた。海斗も顔を上げている。

「ちゃんと謝りに来てくれたから…。でも、これからは気をつけてね。壺だったからよかったけど、ぶつかって2人とも怪我をしたら大変なことになるからね。」
「…はい!気をつけます!」

海斗はうれしそうにいい、正樹を見た。正樹もほっとした顔で海斗を見た。

……

正樹は晩御飯を前にうなだれていた。
海斗の前では母親は許してくれたが、今、怒られるかもしれない…と思ったのだった。
母親は白ご飯を口に入れながら「あら?正樹どうしたの?」と言った。

「…壺…おじいちゃんの大事な…」
「ああ、いいっていいってっ!代々伝わっているといっても、大した壺じゃないのよ!」
「!?…え?」

正樹は驚いて、顔を上げた。

「ごめんね。発表会だからって言うから、あれしか思いつかなくて…だって、他になかったのよ。正樹に恥をかかせたくなかったし。」
「…そう…そうなんだ…!」

正樹はほっとして、やっと箸を取った。母親は笑った。

……

正樹はベッドに入って、海斗の事を思っていた。
もしかすると、正樹が落としたことを正直に言っても大丈夫だったかもしれない…。明日、海斗に会ったらそう言おう。と思った。

だが、海斗がどうして自分にそこまでしてくれたのかわからなかった。
海斗はあまり学校に出てこない。今日は発表会を見たかったのか、たまたま学校に来たのだった。
発表会で、海斗は何も持ってきていなかった。だが、皆の「大事な物」を見て、目を輝かせていた。正樹の持って行った壺も「傍で見せて」と自分から手を上げて言い、正樹が「いいよ」と言うと、嬉しそうに駆け寄ってきて、じっと壺をいろんな方向から見ていた。
先生がそんな海斗に「鑑定してるの?」と言うと、クラス中が笑った。海斗も照れくさそうに笑っていた…。

ただ正樹が不安なのは、海斗の腕や足にあざができているのを、時々見たことがあるからだった。
お父さんが厳しい人…というのも聞いた事がある。
一度、担任の先生が家に行ったということも聞いた。…だが、その後も海斗の親が警察に捕まった…というような事も聞いていないから、大丈夫だろうと思っていた。

(明日、海斗君が来てたら「ごめんなさい」って言おう。…あ「ありがとう」かな…?)

正樹はそう思いながら、いつの間にか眠りに落ちていた。

……

翌朝、学校に行くと何か教室が騒がしかった。

「どうしたの?」

正樹がランドセルを置きながら、となりの女子に聞くと「海斗君が…」と青い顔をして言った。

「!?海斗君がっ!?何!?」
「…死んだんだって…」
「…えっ!?」
「…朝のニュースで…言ってたんだって…。救急車で運ばれたけど、もう心臓止まってたって…」
「どうして!?どうして…」
「…ぎゃくたい…って、テレビでは言ってたけど…。お父さんが捕まったって…。」
「!?」

正樹は血の気が引くのを感じた。
もしかすると、昨日の壺の事で怒られたのではと思ったのだ。
正樹は、教室を飛び出した。

……

職員室では、校長始め、教頭、教師たちが、次から次へと鳴る電話の対応に追われていた。
担任の教師が1人、机の前に座りぼんやりとしているのを見た正樹は、担任の教師に駆け寄った。

「…先生!」
「!正樹君…!」

担任の教師は立ち上がり、正樹の両肩を掴んで言った。

「…壺を海斗君が割ったって本当!?」
「!?」

正樹は体を強張らせた。

「昨日…正樹君にぶつかって大事な壺を割っちゃったから…海斗君のお父さんが怒って…何度も殴ったって…」
「!?」
「どうして、先生のところ来てくれなかったのっ!?…来てくれたら…先生…海斗君の家に行ったのに…」

担任の教師はそう言い、再び椅子に座りこむと、顔を伏せて泣き出した。
自分のせいで、海斗が死んでしまった。
正樹は体が震えるのを感じた。同時に目の前が真っ暗になった。

……

目が覚めると、保健室のベッドに寝ていた。
母親が目を真っ赤に腫らして、傍の椅子に座っていた。

「お母さん…」
「…海斗君…黙ってたら良かったのに…自分から親に言ったのね…」

母親はいきなりそう正樹に言った。
そして、涙をぼろぼろとこぼした。

「…黙ってたら…良かったのに…!」

母親はそう同じことを言うと、肩を震わせて嗚咽を漏らした。
正樹の目にも涙が溢れ出てきた。

(…本当だ。)

正樹はそう思った。黙っていたら良かったのに、どうしてお父さんにわざわざ言ったんだろう?…それに…あれは嘘だったのに…。

(僕のせいだ…あの時…正直に言っていたら…)

正樹は声を上げて泣いた。
母親が正樹の頭を抱きしめた。

……

(海斗君…僕も行くよ。そっちに…)

正樹はふらふらと外を歩いていた。もう夜中だ。
ベッドで寝ている振りをして部屋の鍵を閉め、窓からこっそり家を出たのだった。

どれくらい歩いただろう。
正樹は埠頭にたどりついた。
潮の香りが心地よかった。海に飛び込めば、死ねるだろうと正樹は思った。

(海斗君は苦しんで死んだから…僕も苦しんで…死のう…。)

海に飛び込んだことを想像した。水が口の中に入ってきて息ができなくて、きっと苦しいだろう。
海斗は父親に何度も殴られて、どんなに痛かっただろう。どんなに苦しかっただろう…。