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きらめきの風

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ぴんぽ~ん
アパートの一室のベルを鳴らした。
どきどきする。
昔、幼い自分たちをおいて出ていった、顔もよく覚えていない母親。いまどんな生活を送っているのか。
再婚してたりして。
そもそもこの住所にまだ住んでいるのか。
美奈子は、いろいろな思いが錯綜してめまいで倒れそうだった。

がちゃり

チェーン越しにドアが開く。


女性が出た。母だろうか。
「…誰?」
「み、み、美奈子です…」
女性は明らかに目を見開いて驚いていた。
そしてすぐにドアが閉まった。


一瞬の沈黙。美奈子には10分くらいに感じたその間はおそらく20秒ほどであろう。
美奈子の体によくわからない汗が噴き出る。
「お、お母さんですか?」
勇気を振り絞って出した声はうわずっている。


やっと会えた。
本当はずっと会いたかった。
普通の母親なら、自分の子がどんなふうに育っているか気になるはず。
子の幸せを願わない母親はいないよね。
私、幸せじゃないよ。
助けて。お母さん。
お父さんもお兄ちゃんも怖いよ。
助けて。
助けて。

頭の中で美奈子は叫んでいた。




「山本さん、じゃないですか」
美奈子はもう一度呼びかけてみた。
作品名:きらめきの風 作家名:橘 杏李