Knockin’on heaven’s door
その1
「初めましてぇ、鈴木さん」
僕の声に鈴木さんはとても驚いていた。「俺が見えるの?」というリアクションだが僕には毎度の事、気に留めずに話を続ける事にした。
『 子煩悩な鈴木雅貴の場合 』
「日曜日に遊園地に連れて行く約束だったんです。なのに前日の夜に……」
今回、天国へ旅立ってもらう鈴木さんは、娘さんとの約束を果たせなかった後悔の念で現世に留まっている。このような優しい気持ちの持ち主を天国へと送ると、天国は良質な霊魂が増えて運営がスムーズに行われるのだ。
「鈴木さん、現世を離れるにあたって『浄化』を行ってもらいたいのです。あなたの御霊を少しでも良質に高めるために、現世でやり残した事はないですか?」
「やり残した事ですか……、最後に娘の姿を見られるのなら、それだけでいいです」
鈴木さんはそう言うと、静かに目を閉じて黙り込んでしまった。亡くなっても愛娘を思い、その優しげな表情で見守ってあげていたのだろう。
「分かりました、鈴木さん。それでは娘さんのいる場所まで行きましょう」
「……はい」
僕の後ろを鈴木さんはトボトボと歩いてくる。その間も、自慢の愛娘の事を思い出し、僕に出来事の全てを話してくれた。
小さな公園に着いた僕たちは、一組の親子に目が止まった。芝生の上で小さなボールを使って遊んでいる小さな女の子と、その母親。
「間違いない、真奈美だ」
鈴木さんはそう言うと、大粒の涙を流し始めた。「近くに行きませんか?」と僕が言っても、鈴木さんはその場を離れる事はなかった。
「会わせる顔がないのです」
「いえいえ鈴木さん、向こうからは見えませんよ」
「そうなんですけど、会わせる顔がないのです。親らしい事をしてあげられなかった、だから今まで娘を見守ってやる事もできずに……」
「そうですか……」
「ありがとう。また、娘の姿を見られて満足したよ」
「いえ、これが仕事ですから。娘さん、まだ小さいから心残りになりますか?」
「ハハハ、俺の娘は母親の方だよ」
「えっ? ……鈴木さん、どれだけ現世に留まっていたのですか」
鈴木さんは照れながら、笑顔のままで光に包まれて消えて行った。
天国と契約して、現世に居座る良質な霊魂を天国に送る、それが僕の仕事。
作品名:Knockin’on heaven’s door 作家名:みゅぐ