ちっぽけバンド奮闘記
大野商業高校に入学して早1年。
初夏のにおいがする5月初めの月曜日。
時計の針は10時12分を指していた。
龍児はいつものようにベットの上で寝転がっていた。
急いで支度する気もまったくない。
クラスの奴からいじめられてるわけでもない。
不良ぶってるわけでもない。
朝が極端に弱いわけでもない。
ただ、学校に行って勉強をする意味を感じれないだけ。
気が向いたら登校する毎日だった。
何も考えてないワケじゃない。
検定前にはしっかり勉強してるし、今まで受けた検定も全て受かっている。
将来役に立つ、と言われているからなんとなく取っている。
進路なんて何も考えてないが。
大野商業高校(以下:大商)は一般的に学力が低い学生に人気がある。
商業高校ということもあり、女子が6割、男子が4割を占めている。
大商への進学理由の多くは、在学中に資格をたくさん取得し、就職に生かすこと。
大商からの学生は8割は就職に進んでいる。
このだらしない高校生活を送っている森平龍児もその一人だ。
進学の予定はなく、就職だろう、と頭にふわふわと浮かんでいる程度だが。
龍児は寝返りをうった。
部屋の隅にある電子ドラムが目に飛び込んできた。
散らかっている部屋だがその周りだけはしっかりと片付いている。
中学3年の頃に音楽に触れた。
友達の家にあるドラムを叩かせてもらい、ずんずんとはまっていった。
絶対に高校になったらバンドを組みたいと思っていた。
週1、2でスタジオに入り、音を合わせる。
極一般的なバンドマンの生活がしたかった。
しかし、高校になって気づいたら楽器だの何だのと言っているのは自分だけだった。
ドラムと出会わせてくれた友達も、弾いていたギターを押入れにしまい、勉学に励みだした。
本気で上を目指し、バンドで飯を食っていきたい。
そんなのに挑戦してみたい。
特に周りの人に言う理由もなく、この思いは自分の心に閉じ込めたままだ。
あの電子ドラム、入学から夏休みまでのバイト代全部つぎ込んで買ったんだけどな。
そんなことを思いながら、再び目を閉じ、眠りについた。
─
龍児は携帯のバイブ音で目を覚ました。
「マチダ楽器・・・なんだろ」
龍児は電話をとった。
「もしもし・・」
「おお、龍児。お前今暇か?」
「ん、今起きたんだけど・・・まあ暇かな・・」
一応今は学校では昼休みだが。
「そうか、じゃあ店にきてみろ。そんじゃあな」
「え、あの」
ブツ
何て一方的な切り方だ。
いつものことか、と思いながら、龍児は身支度を始めた。
ここ、佐賀県倉津市の空気は澄んでいる。
綺麗な空気の中を緑鮮やかな棚田を横目に自転車で進んでいく。
のんびりとしたこの雰囲気が龍児は大好きだ。
龍児は自分の町のすばらしさを再確認しつつ、マチダ楽器へと向かった。
作品名:ちっぽけバンド奮闘記 作家名:あるぱけ