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べんち1

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誕生日に、よく使われる台詞
「生まれて来てくれてありがとう」。
 言われてみると気恥ずかしい。それも同性から、となると、さらに恥ずかしいというより気持ち悪い。
「もう、此処へは来ないからな。」
「おまえ、それが、誕生日を祝ってやる唯一の人間に言うことかい。ほんま、情緒の欠片のないやつやで。」
 一応、ケーキなんてものが、テーブルには載せられていて、どうやって入手したのかシャンペンなんてものまである。さすがに、プレゼントはないらしい。それはそうだろう。それを交換したことなんてない。
 ぶつぶつと愚痴りながら、彼は、ケーキに細いロウソクを立てている。
「まだやるか? 」
「あたりまえやろ。せっかく用意したもんを楽しまんで、どーする。ほれ、そこへ座れ。歌ってやるから吹き消せ。」
「やるもんかっっ。」
「可愛くない。ほんま、おまえは可愛くない。」
「可愛くなくていい。」
「ええやんええやん、こういう時は、このロウソクの炎を瞳に映して泣くわけよ。そんで、俺に、笑いかけて、『ありがとう』とはにかむ。これや、これが、お約束っちゅーもんやっっ。
・・・ええか? 『泣きなさい笑いなさい、ありがとう、きみ大作戦っっ。』 どう?」
 呆れて物も言えない。ローカル色が豊かな、この相方は、いつも、こんな調子だ。どんな事態でも、とりあえずは、何かやらないと気がすまない。それで、心を落ち着けてから、迅速に冷静に対処する。ある意味、ひとつの才能かもしれないとはね常々、思っていた。
「歌わないなら、吹き消す。」
 せっかく用意されたものを無駄にするのも、躊躇われて、どっかりと椅子に腰を下ろした。
「シャイなんやからなあ。まあ、ええわ。ほなら、点けるで。」
 三本の細いロウソクに、火を点した。吹き消そうとすると、待てと、手で止められた。
「なに? 」
「おめでとう。・・生まれて来てくれておおきに。お陰で、俺は、おまえと愉快な時間を過ごせる。」
 ちょっと真顔で、ぺこりと頭を下げられた。
「それは、俺が言う台詞だ。」
「そうかな? ちゃんと、ツッコミしてくれるやんか? それ、俺としては貴重なんよ。とりあえず、どうぞ。」
 やっぱり、笑いながら、停めていた手を引っ込めた。どうやって準備したのだろう。こういうものが、ここの物資に含まれていたとは思えない。基本の材料となるものはあったはずだから、調べて作ったはずだ。
 ふーっと、息を吹きかけると、ロウソクは、綺麗に消えた。
「器用だとは思ったけどさ。」
「味は保証せぇーへんけどな。まあ、食べて。」
 ふたりして、ロウソクを外して、両側から、ケーキをつついた。
「こういうの忘れてた。」
「せやろなあー、きみなあ、自分の誕生日くらいチェックしといたら、どうなんよ? 普通はやるやろ。」
「あんまり意味はないだろ? 」
「でも、恋人が、向こうで祝ってくれてるかもしれへんで? 」
「ああ、それはないな。別れてきたから。」
 とても長い仕事になりそうだったから、事情を説明して分かれてきた。納得はしていなかったが、「生きて帰って来てくれたら、また付き合ってね。」 と、了承の意見は貰った。生死の問題で考えたら、限りなく難しいことだった。
「なんや、もったいないなあ。待っててもらうほうがええやんか。」
「そういうおまえは? 」
「俺? 俺は人間が嫌いやから、元からいません。」
「はあ? 」
「いや、せやから、きみみたいな無口なやつでよかったんよ。ぐたぐだと喋るんが、ふたりやったら、俺はあかんのや。・・・純粋に、ひとりで居たかったから、ひとりでええっちゅーたんやけどな。それは認められへんかったから、きみまで付き合わされることになったわけ。」
「ああ、だからか。」
 この仕事は、最初、簡単な打診から始まった。戻ってこられない確率が、あまりにも高いから、志願という形態でなければならなかったし、周囲に対する配慮もあった。
「ということは、おまえは、純粋に引き篭もりたかったということか? 」
「まあ、そういうことやろうな。きみは、純粋に科学的好奇心なんてものからか? 」
「まあ、それもあるけど、破格の報酬にも引き寄せられた。家族に支払われるようになってるし、終身報酬より上だったから。」
 両親に対して支払われるように、手配はしてきた。いろいろとわだかまりはあるが、生み育ててくれた礼にはなるだろう、とは思ったからだ。
「あ、俺、なんも手配してないわ。もしかして・・・俺の報酬って、国家予算へ没収か? うわ、最悪やな。」
「何もしなくても、家族に渡ると思う。」
「ああ、うちはいてないからな。まあ、ええわ。戻るつもりやから、それから、文句は言わせてもらおう。」
「戻る? 」
 この任務の期間は、五年。だが、地上で計算されただけの計画であるから、不測の事態があれば、そこで終わりだ。
「戻るで、俺は。五年では無理やけど、十年以内には戻るつもりやから。それぐらいでええやろ? 」
「そんなに食料がもたないと思うぞ。それに、戻っても停止できるだけの燃料が残っているとは思えない。」
「ははーん、そこいらは考えてるね、俺は。何も計画通りにやるつもりはない。冷凍睡眠装置っていうのがあるんやから、それを使ったら、かなり食料は稼げる。燃料かて、慣性飛行を使うっちゅー手がある。まあ、そこいらへんは任しとき。」
 五年で、ある惑星まで往復する。そこで、その惑星の重力を使って反転して地球へ戻る。それだけの任務ではあるが、有人飛行での、初の試みだった。それに選ばれたことは誇らしかったが、生きて帰れる見込みはないだろうと思っていた。
 これは運命っていうものだと、受け入れる覚悟をした。少し仕事に疲れていたのかもしれない。投げ遣りではなかったが、それに近い気分で、引き受けた。
「別に帰れなくてもいいんだけど。」
「わかった。帰っても、そのまま寝かしといたるから安心しい。」
「いや、そういうわけじゃあ・・・」
「とりあえず、戻ったら、選択させたる。」
 そうじゃないんだが・・・と、思ったが、それ以上には言わなかった。ケーキを食べて、シャンパンを呑んだら、少し気分がよくなった。
「・・・子供の頃みたいだ・・・」
「そうか、それはよかった。ちょっとは楽しんでもらわんとな。」
「・・うん・・・」
「あのな、人間は、生きて帰れると思ったら、生きて帰れるんや。きみみたいに、死ぬつもりでおってくれたら、帰れるもんも帰れへんようになる。だから、与えられた運命を上を向いて生きるしかないんや。笑って、生きてるのは楽しいっていう気分になってくれ。それが一番や。」
 ニコニコと笑って、相方はそう言った。そういうもんかもしないな、と、思い直して、「そうする。」 と、返事した。そう思っていれば、結構、この体験は貴重なのかもしれない。
「そういえば、おまえの誕生日はいつだっけ? 」
「ああ、アラームかけてある。なんかしてくれるか? 」
「ケーキは無理。」
「それはええけどさ。日本酒ぐらいは合成してもらおうかなあ。」
 材料を合成すれば、それに近いものは作れるはずだ。米があったな、と、積み込まれた材料を思い出して頷いた。
作品名:べんち1 作家名:篠義