ちょっと怖い小咄【一幕】
小咄其の壱 『エレベーター』
どうもタイミングが悪くて、いつもえらい目にあう。
深田半平太は、点滅する階数のボタンを見つめながらひとりごちた。バスや電車も
よく乗り越したり、遅れたりするし。
「御利用ありがとうございます。お降りになる階数をお知らせ下さい。当エレベー
タは間もなく最上階に到着致しま~す」
デパガの明るくよく通る声が聞こえる。
「屋上でございます。お降りのかたはいらっしゃいませんか? …では、上に参り
ま~す。」
眩いばかりの優しい笑顔で言った。ああ、降りなきゃ、と思う間もなく扉は閉ま
り、また開いた。霞がかってはいるが、明るく静かなところに着いた。遠くに花畑
や河が見える。何故だろうと考えたが、川岸に懐かしい顔が見えた気がしたので、
降りようとした、が。
「お降りのかたはいらっしゃいませんか? では下に参りま~す。」
降りるのに、と言うより前に扉は閉まり、下降しはじめた。客は自分ひとりになっ
た。エレベータは最下階を突き抜け、どんどん下へ。デパガは邪悪な笑みを浮かべ
ている。
タイミングが悪くて、いつもえらい目にあう。半平太はひとりごちた・・・。
・・・おしまい。
作品名:ちょっと怖い小咄【一幕】 作家名:JIN