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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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黒い空と手

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【黒い空と手】




 つないだ手はそっと離れた。
もう二度と目にすることすら叶わない。
あなたはどこに行ってしまったのだろう。
私はどこに行ってしまったのだろう。

黒い空。

あの日、二人。


 あなたは裏切ったんだね。

 いいえ、私は裏切ってなんかいない。

「だって見てごらんよ、あの空を。真っ黒で何も見えないよ。
雲が少しずつ私たちを侵していくよ」


 あなたの顔が私はよく見えずに目を凝らす。
黒い空は少しずつ私たちを染めて、飲み込んでいくように思えた。
こわいこわい空。悲しくて美しい。

「空は終わらないよ。
私が消えてしまっても、あなたが消えてしまっても。空は生きているんだよ。きっと……」

 私はどこか願うように言葉を口にしていた。自分の体から心が抜け出てしまったように不可思議で現実感がない。
私の服の裾が風に微かに動くのだけが感じられた。

 あなたは言う、
「人は無限に存在するんだよ。私が消えてもまた私が始まっていくん
だ。ひとつ、ひとつ、光は幻のように消えては灯る。決して掴むことなどできないのに」

 あなたの言葉は淡く溶けていく。私は心を言葉に寄り添って溶かそうとする。叶わないのに。
 そして、私は言葉を紡ぐ。

「光は綺麗だよ。消えていくものは綺麗なんだよ。
終わりがないのは悲しい。悲しいけれど…、私はそれも幻だと思うよ。あなたは幻になりたいの」

「さあね……、私は幻だから」

「よくわからない……」

 あなたは空を見上げる。私にはあなたが消えそうに見えてしまう。遠くを見やるあなたはどこか儚い。

「空は青いね。黒に覆われて、きっと青く光るんだろう」

「そう、そうだね……。青は、青は、……」

 青という言葉は怖い。私は言葉を紡げなくなってしまう。心は動けない。
作品名:黒い空と手 作家名:冬野すいみ