クロネコ
◆ Prologue.
暗い夜。
寒い寒い夜。
綺麗な三日月がほのかに照らす雪の夜に、小さなクロネコは生まれた。
クロネコが初めてその目を開け、瞳に映したものは、自分と同じ、真っ黒な身体の母猫。もう動かなくなった、母親だった。
母親は頭から赤い血を流し、白雪の絨毯を赤く染めながら、その体を力なく横たえていた。
クロネコは母親に向かってまるで何かを訴えかけるように小さく、小さく、鳴き声をあげた。その小さなささやきは、まるで吐息のように儚かった。
広がる赤は、本当に鮮やかな赤だった。
クロネコは母親に向かって一声鳴くと、母親が最期に残してくれた微かな温もりを感じながら寄り添った。
綺麗だけれど冷たい雪が、やがて赤と黒を少しずつ覆い隠していく。
少しずつ、少しずつ、薄れていく母親の温もりを、クロネコは小さな身体を母の身体に潜り込ませて懸命に感じた。
少しでも長く、強く、感じていたくて。
少しでも大切に、鮮明に、覚えていたくて。
小さなクロネコが最初で最後に感じた、母親の温もりだった。