太陽と影
彼女は沈みゆく夕陽を見つめていた。橙色の光を受けて彼女は燃えているかのようだった。
彼女の悲しみや苦しみが彼女から燃え上がり、世界を染め上げているのかもしれないと思った。
「太陽が沈むわ」
彼女はゆるやかに言葉を紡ぐ。
「あなたが、私の太陽だったのかもしれないわね。滑稽だけど。
こんな醜い、みじめな太陽は見たことがないわね」
そう言って彼女はこちらを見て寂しそうに笑った。嫌な笑顔を作っているのが痛ましかった。
私は彼女の言葉をどこか遠くで聞いているような気持ちになった。
私が太陽……?彼女は気が変になったのだろうか。心を痛めつけているように見えた。
私が太陽ならば彼女を照らして暖めてあげることもできるのだろう。
けれど、私は太陽ではない。
そのことがとても悲しく思えた。ああ、どうして私は太陽ではないのだろう。
私は泣いていた。もう言葉が出てこなくなり、代わりに涙があふれていた。
私は彼女がいなくなるんじゃないかと悲しかった。怖かった。
私の太陽。
大好き、大嫌い。どうかいなくならないで。
「帰ろう……?
あなたは太陽だよ。
だいすきで、だいきらいだよ」
人間とはおかしな生き物だ。勝手に苦しみや悲しみを作り出して、もがきながら生きている。心に溺れながら必死に息をしているのだ。
好きで、嫌い。相反する二つの感情を抱き、心がごちゃごちゃになっている。
私は手を差し出した。彼女はじっと私の手を見つめていた。
……そして、そっと、私の手を取った。
何の温度もしない手だった。私達の繋がれた手は夕陽を浴びて同じ色に染まっていた。
穏やかで熱い色だった。橙色。
そして手をつなげたまま、ただそこにいた。
ふたり、夕陽が沈みゆくのを黙って眺めていた。
太陽は終わる。
そして始まっていく……。
空はどこまでも美しく、悲しかった。