小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ひとつの桜の花ひとつ

INDEX|5ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

小さな会社で


「どうしよう、お昼は私が先に行っちゃおうか・・主任はもうすぐ帰ってくるし、今の人達が戻ってくるかもしれないから、柏倉君はあとでもいいかな・・」
いつもは、先にこの時間に食事をさせてもらっていた。
「俺が、1人っきりでもいいんですか・・」
「大丈夫でしょ、私お弁当買ってきてここで食べるから」
「なら、いいですよ、どっかにいかれたらなんかあったら困るけど、ここで食べてもらえるんなら、先にお昼休憩しちゃってください」
「じゃぁ、そうするね」
言いながら、石島さんは、お財布を片手にコンビニに向かっていった。

「失礼します」
1人で、カウンターに座っているとさっきの親子連れがもう、もうドアを開けて目の前にだった。
「あ、はぃ。どうしましょう・・」
「お願いしようかと思いまして」
しっかりした高校生が椅子を引きながらはっきりとした声でだった。
「そうですか、どちらにしますか・・」
「中を見させていただいたほうで・・」
「はぃ、わかりました、では、今日は仮契約で、本契約は後日になさいますか・・」
おかーさんに向かってだった。
「はぃ、そうさせていただいてもいいですか」
「けっこうですよ、こちらにご記入いただいて、手付け金を入れてもらえればかまいません」
書類を出しながら細かい説明を始めていた。
1万円を受け取って、領収書をきって、1週間以内に本契約を結ぶ約束をしていた。
「これで、よろしいでしょうか・・」
差し出された書類にの点検をすると、住所は茨城県になっていた。
「あれ、お住まい茨城の学園なんですね・・僕も茨城県なんですけど なまってないですねぇ・・」
2人とも、綺麗な標準語だったから、不思議なかんじだった。
「もともとは、こっちにいたんですけど、おとーさんの仕事で引っ越したので・・」
娘さんがはっきりとだった。
「そうですか・・どうりでですね」
筑波の学園都市には東京から筑波大学の関係者や研究施設の関係で多くの人が東京から引っ越してきていたけれど、どうやら、その関係のようだった。
「もともと、この下北沢に住んでいたんですよ、駅の反対方向ですけどね」
なんとなく、部屋探しに浮ついた感じがしなかったのが 少し理解できたような気がしていた。
「では、こちらがお控えです。契約書はお渡ししておきますので、鉛筆で印がつけてあるところをご記入してお持ちくださいね」
「はぃ、ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ」
しっかりしていた娘さんだったので、おかーさんではなく、彼女に書類のはいった封筒を渡しながらだった。
「なにか、あったらお電話ください」
「はぃ、お世話になりました」
おかーさんの声で娘さんにも一緒に頭を下げていた。
うれしそうな笑顔のお嬢さんと、ほっとしたって感じのおかーさんだった。

「あれ、決まっちゃったの・・」
入れ違いに石島さんがお弁当を手に持って戻ってきていた。
「遅いですよー 1人でどうしようかと思っちゃいました・・」
「ごめんごめん、本屋さん寄ってたから・・」
「はぃ、書類と手付金ですから・・」
「うん、どれ、どれ・・・」
言いながら書類のチェックをしていた。
「はぃ、大丈夫よー。なんか、あっさりだったね・・けっこう、他の物件もあたった後だったのかな・・」
「そうかもしれませんね」
「大学なのかな、今の子は・・」
「そうみたいでしたけど、大学の名前聞くのは忘れちゃいました、いいですよね・・」
「うん、きちんとした子みたいだから・・東大だったらびっくりね・・」
「私立ですよ・・推薦入学ですから」
井の頭線にのると駒場の教育学部はそこだったけど、推薦って言ってたし、私大に間違いないはずだった。
「そうか、じゃ、ご飯にするから、なんか困ったら呼んでね」
奥の表からは見えないパーテーションの裏でお弁当を食べるようだった。
「柏倉くん、日本茶飲むなら いれるけどー」
「あ、すいません、いただきます」
コヒーはいつでも、自由に出来ていたものを飲めたけど日本茶はわざわざいれないといけなかった。
「はぃ、どうぞ」
「すいません、どうも・・」
「柏倉君って、宅建主任者の資格とか取るわけ・・」
後ろの席でご飯を食べながら声をかけられていた。
「えっ、そんな気は全然ないですけど」
「そうなの、取っちゃえばいいのに、資格を取るために、ここでバイトなのかと思った」
「そうですかぁ、そんなことちっとも思ってないんですけど・・」
「柏倉君って、なんか、お客さん扱うのうまいよね、なんかこういう関係のバイトしてたの・・」
「いやー 何もしてないですけど・・前のバイトは喫茶店だし」
「へー そうなんだ、喫茶店にいたんだ・・えっとまだ、大学1年生だよね、2個下か・・」
「はぃ」
「石島さんって、ここできるまでは本社に居たんですか
「そうそう、で、希望でこっち来たのよ、宅建の資格とりたいしね、ここのがいいから」
「そうですか、試験受けるんですね」
「柏倉君も勉強して資格取っちゃえば・・」
「いや、俺、向かないから、きっと・・」
「そんな事無いと思うけど・・あっー ひょっとすると、柏倉くんはそうでも、社長って大学卒業したら、このままうちの会社に入れたいんじゃないの・・それで、働らかせてるんじゃないの・・」
「それは、どうですかぁ・・ちょっと、いろいろあって、ないと思います」
「だって、社長ってお子さんいないみたいだし・・それで働かせてるんじゃないの・・」
「それは、どうかなぁ・・でも、たぶん ないですよ」
「ふーん、そうかなぁ・・そうなんじゃないのかなぁ・・ま、まだ1年生だもんね、わかんないわよね」
「はぃ」
「あ、社長にはよろしく言ってよねー 私のこと・・変な事は言わないでよー」
「はぁ・・」
意味はわかったけど、わからない顔でだった。

「失礼しまーす、これって まだありますか」
ウインドーに吊るしてある物件の紹介を指差しながらだった。
「いらっしゃいませ」
今度は、女の子が1人でだった。
「えっと、ありますよー、よかったら他のもありますから、どうぞ」
カウンターの向こう側の椅子にご案内していた。
また、アルバイトなのにひとりで、仕事だった。
物件の資料を取りに後ろを振り向くと、今度は石島さんがパーテーションの後ろから顔を出して、頑張ってねって笑顔だった。
おまけに、壁に飾ってあった社長の叔父の写真まで、笑っていた。もちろんもともと、なんだか豪快に笑っていた写真だった。なんか叔父らしかった。


作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生