小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ひとつの桜の花ひとつ

INDEX|3ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

月曜の朝は 花曇


「ねぇ 起きてるのー」
昨日は日曜だったから、3階の部屋に戻らずに泊まっていった直美に起こされていた。
「もうすぐ8時になっちゃうよー 知ってるのー バイト行くんでしょー」
7時前に1回起こされたけど、なんだかちょっと寝たつもりが1時間も寝ていたようだった。
「いま、 起きるから」
「朝ごはんはきちんと食べてねー」
隣の部屋から怒ってはいなかったけど、大きな声が聞こえていた。

「今日ってバイトでしょ」
顔を洗って直美が作ってくれた朝ごはんが並んだテーブルについていた。
「うん、今週から週に2回だけ休みにしたから」
「何曜日お休みなの・・全然言わないんだから・・」
「水曜日と、土曜日ね」
「もうー 劉ったら、そういうことは早く言ってよね」
朝ごはんを食べながら今度は間違いなく怒られていた。
「私は、基本的にこれから早番の週に4日から5日だからね、今日帰ってきたらシフト表渡しておくね」
「うん、うゎ、ギリギリかも、俺・・」
「もう、ちゃんと起こしたのに・・」
結局アルバイトは、お世話になった新宿のOSADAを辞めて、赤堤の叔父の会社にお世話になって、先週から子会社の下北沢の会社で賃貸物件の不動産の紹介の手伝いをしていた。
「ごめんごめん、俺のが早いかなぁ、帰ってくるのって・・」
「5時までだから、劉もでしょ・・」
「うん、何も無ければ5時で終わりだけど、お客ついちゃったらわかんないや」
「真っ直ぐ帰ってきてよね」
「うん、うわー 着替えて出かけるわ・・」
「叔父さんの会社なんだから、遅刻なんかしないでよね・・」
「ご馳走様でした」
なんだか、背広着ろって言われたから、先週からネクタイをして叔父の若い時のお古の背広に着替えなきゃいけなかった。さすがにネクタイは安い新しいのを首にだった。
「なんかさ、けっこう似合うよね、不思議だね、最初はびっくりしたけど・・」
「どう、社会人って感じかな」
「まだ、新米って感じだけどね・・」
「そりゃそうでしょ」
「着替えたら早く行かないとだよー 劉が1番下っ端なんだから・・」
「うん、先に行くわ、気をつけてね」
「劉こそあわてて走ったりしないでよー」
9時から開く会社だったから、ちょっとギリギリになっていた。
「はぃ ハンカチね」
「ありがとう」
綺麗に折り目のついたハンカチだった。
「劉、もう忘れ物ないの・・」
「はぃ ありました」
もちろん 短いキスだった。
あいかわらずうれしそうな顔は変わっていなかった。そこがとっても好きだった。

マンションを出て、小田急線豪徳寺の駅まで歩いて、それから下北沢までは梅が丘、世田谷代田とだった。
もう、ギブスを外した足は、日常は問題なかったけど、やっぱり少し知らない間にかばって歩いていたから、下北沢の駅の階段を降りたりするのには少し時間がかかっていた。
南口を降りて、茶沢通りに面したところが、叔父が秋に出した路面の不動産の会社だった。子会社だったけど、社長はもちろん叔父の名前だった。
駅からまだ、静かな下北沢の駅前を歩いて5分もしないで会社についていた。時間は9時10分前だった。
「おはようございます、すいません遅くなりました」
玄関前で掃除をしていた、石島恵子さんにだった。短大を出て春に入社した、ここでは1番若い社員さんだった。全員で店長を入れて3人で、俺を入れても4人の会社だった。
店長の高田さんが35歳ぐらいで、その下が主任の大橋さんが25歳ぐらいの綺麗な女の人で、その下に石島さんだった。叔父の会社だったからやっぱり、綺麗な人が多かった。それは前から思っていたことだった。
「おはよう、柏倉君、今日は店長お休みだから、3人ね」
「そうですか、わかりました」
「挨拶いいから、タイムカード押さないと遅刻になっちゃうよ」
「あ、はい」
あわてて、中に入ると、なんだか優雅に紅茶を飲んでいる大橋さんだった。
「おはようございます、すいません 1番遅くて・・」
「いいわよ、まだ、遅刻じゃないし・・」
「いえ、すいませんでした」
言いながらタイムカードの打刻の音を響かせていた。
「コヒーはもう、出来てるから、ま、一息いれたら仕事してね」
「はぃ、今日は何をすればいいですか、主任」
「昨日あたりから、春からの大学生さん増えたから、それの対応と、新規のお部屋のファイル整理してね、あとは歩いていけるとこは、一緒にお客さんつれてご案内かな」
「はぃ、わかりました」
「じゃぁ、がんばって契約させてね」
「はい、がんばります」
主任は言い終わると、店の奥の椅子に座りなおしていた。
「じゃ、カウンターは私とでね」
中に戻ってきた石島さんが隣に座りながら、俺にもコーヒーを差し出しながらだった。
「はぃ、昨日は忙しかったですか」
「うん、日曜だからね、けっこうもう大学生来てたね、でも、住みたくても下北沢って高いからね・・お客さんの予算となかなかね、歩けばあるんだけどねー」
人気のある街だったから、憧れて部屋を探しに来る人はいっぱいだったけど、思ってるよりやっぱり家賃は高くて、ため息ついてかえる人がたしかに多かった。
「さ、頑張ってねー 店長いない日に契約多いと私うれしいから・・」
笑いながら後ろの席から大橋さんの声がだった。

9時ちょうど、下北沢の「シオン・コーポレーション」の開店だった。
綺麗に掃除されたウインドーには似合ってるかどうかはわからないネクタイ姿の俺がぼんやりと映っていた。外は花曇の空だった。


作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生