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陰陽戦記TAKERU 後編

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 残された体の方にも変化があった。
『熱いっ! 体が焼けるっ!』
『き、消えるっ! オレ達が消えるっ?』
『いっ、嫌だ! 消えたくないっ!』
『グフッ? グルルルッ?』
 残された体の方が熱せられたプラスチックみたいに黒くブクブクに膨れ上がると饕餮、檮杌、窮奇、渾沌の顔が順番に浮かび上がるとその場に倒れて爆発した。
『グッ…… 余の体が……』
「残るはテメェだけだ! 道真!」
『貴様っ、どこまでも邪魔を…… ムッ?』
 道真は何かに気付いて後を振り向いた。
 俺もその方向を見ると信じられない物を目にした。
「あれは!」
 さっき俺の攻撃と道真の攻撃が相殺した場所のはるか上空に小さな亀裂が走っていた。
 これは見覚えがある、美和さんが空から降ってきた時に出来ていた裂け目だ。
 俺はさっきの攻撃のぶつかり合いを思い出した。
 美和さんがこの時代に飛ばされたのも強力な陽の気と陰の気のぶつかり合いによる物、つまり今回俺は同じような事をしたのだから理屈上できるのは当たり前だ。
『フフフ、天は我に味方したようだな!』
「何だと?」
『このまま余が元の世界に帰れば貴様達は手出しできぬ、大分予定が狂ったが…… まぁいい! 余の勝ちだ!』
 本当に勝った気でいやがる、だけど事実だった。
 裂け目の中に飛び込めるのは首だけ(と言うより魂が首を形作ってる)の奴くらいなモンだ。
『余の邪魔はさせぬぞ!』
 道真の目から黒い光線が発射されて俺達の足元で爆発し、俺達の怯んだ一瞬の隙をついて道真はタイムトンネルの中に入っていった。
「しまった!」
 タイムトンネルは閉じかけていた。
 このままじゃ奴の思うままだった。
「くそっ!」
 俺は追おうとする、
『よせ!』
 麒麟の声が聞えてきた。
「何で止めるんだよ?」
『お前じゃあの裂け目に飛び込めない…… それに百歩譲って中に入ったとしても、この世界に帰って来れる保証が無いんだぞ!』
「だけどほおっておけるのか?」
 一度閉じたら二度と次元の裂け目は開けない、
 奴が過去の世界に戻ったらもう道真を止められる奴がいない、
 以前学との会話であの中に入るのは海図もコンパスも持たずに航海する様な物だと言う事を思い出した。
 しかしあいつは迷わずに飛び込んだ。つまりあいつは何かしら自分の世界に帰る方法を知ってる、
「武!」
 すると学が言って来た。
「鬼の力と法力であのタイムホールを拡張させる、お前は飛び込め!」
「なっ、学?」
 学は大剣を両手で握り締めると残った全ての力を注ぎ込んだ。
「この力なら少しの間なら何とかなる! 武は道真を倒す事だけを考えろ!」
「学……」
「どうせ止めたって行くんだろ?」
 学は微笑した。まぁその通りなんだけどな、
 俺はタイムホールを見上げた。
「武様! 私も連れて行ってください!」
「美和さん?」
 美和さんは真剣な顔だった。
 美和さんも俺と同じで一度言い出したら聞かないからな……
「……分かった」
 俺が左手を出すと美和さんの白い手が俺の手をつかんだ。
 その時、香穂ちゃんや拓朗や桐生さんや加奈葉が俺達に言って来た。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 必ず帰ってきて」
「僕はもう何も言いません、ちゃっちゃと行って来て下さい」
「武君、美和さん、頑張れ、2人なら何とかなるだろ」
「悔しいけど美和さんに叶わなかった。でも信じてる、2人なら必ず勝てるって」
「ああ!」
「はい!」
 俺と美和さんは力強く頷いた。
「学、頼む!」
「分かった!」
 学は大剣を空に掲げると刀身から黒と金の2色の光が螺旋状を描きながら飛んで行き、閉じようとしていたタイムトンネルの中にぶち込まれた。
 途端タイムトンネルが段々大きくなると人間2人分くらいなら何とかなる大きさになった。
「行くぞっ!」
 俺の背中に金色のビームが生えて空を飛ぶと美和さんと供にタイムトンネルの中へ飛び込んだ。