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陰陽戦記TAKERU 後編

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「学はアンタと手を組んだ事はあったけど…… でもそんなの問題じゃ無い、重要なのは過去なんかじゃ無くて今をどうするかよ!」
「フン、過去も現在も同じだ。人間など所詮は自分より力の無い物を食い物にし、自分より力のある物は妬み憎み、利用するだけ利用して捨ててしまう、それこそがこの世界の…… いや、人の本性と言う物だ!」
「この野郎……」 
 だけど100%間違いだって言えないのも事実だった。確かに誰も学の事を誰も見ようとはしなかった。
 現実俺と加奈葉だって分かってるフリだった。
 すると暗黒天帝は忌々しそうに顔を顰めた。
「……貴様を見ているとかつての私を思い出す、私もかつては莫迦正直に仲間や帝の事を思い都の発展の為に命を捧げた」
「えっ?」
「だが人間は余の知識を恐れて下らぬ企みで余を陥れた。我が自分達の地位を奪われる事を周囲の人間達は恐れたのだ!」
「……やっぱり、そう言う事だったのか!」
「どうした学?」
「……分かったよ、暗黒天帝の正体、この人は…… 菅原道真だ!」
「えっ?」
「菅原道真って……」
 そいつは確か学問の神様だったはずじゃ……
「僕も確証は無かったけど…… 美和さんの話を聞いてもしかしたらと思ってね、調べてたんだ。」
 学は語った。
 菅原道真は平安時代の貴族で、代々学者の家系に生まれた。
 幼い頃から天武の才を発揮して学者、文人、政治家となり55歳で右大臣の地位まで上り詰めた。
 しかしそれに嫉妬した左大臣の藤原時平に騙され、謀反の罪を着せて菅原道真を失脚、北九州の大宰府に追放され無念の死を遂げたと言う、
「美和さんから聞いた事でもしかしたらと思ってたんだ。実際延期5年にそう言う事件が起きてる…… ただの異常気象って声も多いけど、今のは無しでピンと来た」
「ようするに人間への憎しみから悪霊として蘇ったって事か……」
「だけどその事件で無実の罪だって分かって、一族はみんな都に戻されたって……」
「だからどうした?」
 暗黒天帝…… いや、道真は言ってくる、
「後で無実を知ったからとて、それで全てが元に戻ると思ったか? 失われた命が元に戻るのか?」
「そ、それは……」
「貴様と一緒にいる時に学んだのだ。環境汚染に森林破壊、はたまた国同士のくだらない戦争で地球に取り返しのつかない過ちを犯しているではないか、それは紛れも無い事実だ」
 そりゃそうだ。
 確かにそんなニュースは毎回やってる、俺だって分かってる、核戦争でも起これば地球は木端微塵だって事もな……
「余は知ったのだ。この世に必要なのは力のある者が君臨し管理する秩序のある世界…… その為に邪魔な人間は廃除する、余にはその権利がある!」
「そんな権利がどこにある?」
 俺は叫んだ。
 確かに一度失った命は元に戻らない、過ちは直す事はできない、
 だけど今いる人達はまるで関係ない、
「新しい秩序の為だ。多少の犠牲など当たり前だ!」
「……随分、無責任な事を言うんだな!」
「そんなの秩序じゃ無い!」
「そうだよ! 秩序は人が幸せになる為にあるんだもん! 人を不幸にしたりしないもん!」
「不幸なくして幸福などありえん、本物の幸福とは力のある者の下にいて初めて得られるものなのだ!」
「ありえねぇな!」
 俺は鬼斬り丸を支えに立ち上がった。
「何が新しい秩序だよ、何が本物の幸福だよ…… まるでイジメられた中学生が小学生の遊び場でうっぷん晴らしてるようなもんじゃねぇかよ」
「何だと?」
 道真は顔を顰めた。
 確かにこいつだって被害者だ。
 一番悪いのは藤原時平だって事も認める、
 だけど復讐自体はもう済んでる、かつて美和さんに藤原時平は雷に打たれて一族は病死したと聞かされたのを思い出した。
 とはいえ他の人間は関係ない、少なくとも今は平安京とは違う、自分で自分の未来が選べるようになったんだ。
「そりゃテメェにとっちゃ人間なんてもうどうでも良いよな…… もう死んでるんだし、どうせ他人なんだからな…… でもな、俺達は生きてるんだよ」
 俺も今まで学んだ事がある、
 去年の春から美和さんとであって今まで色々な事があった。
 それで戦いを通して色んな人とであったし、色んな辛い事もあった。
 だけど俺は受け入れるって決めたし、何より俺には……
「俺には好きな人がいる、その人は少し真面目すぎるけど、どこの誰よりも人の事を思ってて…… 守るべき世界でもないのに、この世界の為に戦ってくれたんだ」
 俺は美和さんを見る、
 すると美和さんも分かったようで顔を赤くした。
「俺が戦うのはその人が戦うからだ。その人が笑ってくれるのが俺の秩序だ!」
「……戯言を」
 俺が言うと道真はあざ笑った。
「そんな事では永遠に平和など訪れぬ、世界とたかが1人の人間…… いったいどちらが必要だと思っている?」
「美和さんだよ!」
 俺は即答した。
 世界とか秩序なんてどうでもいい、俺の場合は美和さんこそが世界だ。
「た、武様っ?」
 美和さんは慌てふためいた。
「例え世界が敵だって、俺は美和さんの為に戦う! 俺の秩序の中で多少の犠牲なのはお前の方だ! 菅原道真っ!」
「……本当に先輩らしいや」
 遠くの方で拓朗が笑いながら立ち上がった。
「僕は命を全て同じだって思ってる…… 秩序でも平和でも、誰かが犠牲になって言い訳が無い! 犠牲を出して作る秩序なんてただの押し付けだ!」
 拓朗にとっちゃ犬も猫も人間も同じだ。命に壁も重さも無い、その命を天秤に掲げる事自体許せないんだろうな、
「私だって……」
 今度は香穂ちゃんが立ち上がった。
「私だって好きな人がいる…… それに白虎と約束したの、大事な人が居なくなったら悲しいだけだもん、そんな思いするんなら平和なんか無くても良い!」 
 香穂ちゃんは一度家族を失ってるから分かってる、失う辛さって奴を、そしてそこから生まれた守りたいと言う意思、それは本物だ。
「フン、所詮は子供と言うか……」
「大人だってそうだよ」
 桐生さんが立った。
「オレは確かに、法とか秩序とかは大切だと思ってるよ…… だけどな、世の中には法律じゃどうしようもないって事もある、それを破ってでも守らなきゃならない物があるってな!」
 落ち着いてて頭が切れてとても頼りになる、さすが桐生さん、話が分かるぜ、
 そして最後は美和さんだった。
「……私も知ったわ、この世界だってかつての平安京と同じ、まだまだ理不尽や権力で苦しんでいる人だっている…… だけどその分多くの人達が手を取り合って戦う世界になったのよ!」
「それでどうなる? 戦争が止まるとでも言うのか?」
「さぁな、だけど可能性はあるぜ、」
 決して0じゃねぇ、
 かつての平安京は帝の命令が絶対だったから死ねって言われりゃ死ぬしかなかったかもしれない、
 だけど今はそんなバカな命令に立ち上がり告訴できる、
 そりゃ中には仕返しが怖くて出来ないって事もあるけど、嫌なら直ぐに断る事ができる、
「どうするかは自分次第だ。諦めない限りは人間強くなれんだよ!」
「フン、奇麗事を……」
「お褒めに預かり光栄だね」
 俺は皮肉たっぷりに返す、
 野郎もそれは知ってるんだろう、口をへの字に曲げた。