デルタ分遣隊業務日誌(1) レーション
L96。スナイパーライフルじゃないか。……なるほど、だからM14みたいのが肌に合うのか。……いや違う、そこじゃない。スナイパー? 任務でトリガー引かないのに?
「詳しくは、みかちゃんに聞いてください」
そう言ってから、伊藤は俺から視線を切った。それ以上話してくれる気は無い、って事だろう。
俺と組むようになった時はもう今の銃を使っていた。と云う事はその前だ。トリガーを引かないスナイパーなんて有り得ないから、つまり以前は普通に敵を撃ってたって事か……?
立ち入った事を訊くような気は無かったし、撃ちたくないなら撃ちたくないで、任務に支障が無いなら好きにすればいい、と思っていたし、実際支障も無かった……今までは。だから長瀬の「撃ちたくない事情」に別段興味は無かった訳だが、こうなると引っ掛かる。でも伊藤は教えてくれそうにも無いし、本人に訊くったって、どうやって?
「田辺さーん、ありがとー」
背中まである髪がふわふわ靡いて、検問所に向かう。ああして俺以外には割と人当たりが良いのもまた腹立たしい要素の一つだったりする。
「いやいや、全然、ゆっくり吸えたし」
「あああーー!」
田辺さんの声を、突然長瀬が上げた叫びが掻き消す。検問所を覗き込むと、旨そうに安煙草をくゆらす田辺さんと、立ち尽くす長瀬。そして長瀬の手にはレーションの箱二つ。田辺さんの前には食べ終えたレーションの空箱一つ。
「一つ食べたから、新しいの持って来といたよ」
断言しよう、田辺さんに百パーセント悪気は無い。百パーセント善意だ。しかし長瀬ががっくりと膝を付いて崩れる。手には箱二つ。二つとも「十七」と印刷されている。
なんてこった。
まぁでも、俺が「味噌風味の消しゴム」を食べる事に変わりは無いんだが。ちくしょう。
作品名:デルタ分遣隊業務日誌(1) レーション 作家名:あいざわ司