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僕らのアカボシ

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 二十一世紀も四半世紀が過ぎ、石油燃料枯渇の危機は人類に次世代エネルギーの開発を急がせた。

 太陽光発電のような直接的なエネルギーは当然の事、他の再生可能エネルギーに関しても潮力、風車、地熱等様々な発電方法の開発、効率化が模索された。

 それと平行して、メタンハイドレードやバイオマス燃料等の新エネルギー、そして核融合などのエネルギー開発も行われ、人類は文明の灯りと暖を絶やさぬために甚大な労力を注ぎ込んだ。

 しかし、多くの障害がその前には立ちはだかる事になる。


 
 経済発展を遂げGDP世界一となったアジアのとある大国の、共産体制の崩壊による混乱と波及的に発生した、世界的経済危機。

 温暖化に伴う北極の氷の融解によって世界に放たれた新型の病原菌による世界的パンデミックに、太陽のフレア爆発による、軍事衛星の瑣末な事故から拡大した大国同士の軍事的緊張。

 これらの散発した障害は偶発的なものだったが、まるで見合わせたかのように断続的に発生し、人類の希望を暗雲の向こう側に追いやろうとしていた。 

 その発生をして、とある宗教家は、我々が楽園で神に逆らい口にした知恵の実の毒がいよいよ文明を蝕もうとしているのだ、と終末論を説いた。

 箸にも掛からぬその論説は、しかし、少なくない人々の心を掴んだ。それほどまでに人々の心は度重なる困難に疲弊していたのだ。



 人々が神に見放されてしまったのかと嘆くのも仕方がなく、新型パンデミックは罹患者数が世界レベルで数億単位に上るほどの猛威を振るった。

 さらに人類に追い討ちをかけたのはその症状で、刹那的な高熱を断続的に引き起こその症状は、脳炎によって人体を蝕ばみながら、命を落とす事は少なく、多くの人類に脳炎性の後遺障害を遺していく。

 経済、軍事による弊害で人類の総合的な体力は落ちたところに、パンデミックの爪痕は深く、にも関わらず歯止めのかからない人工増加は続き、文明の背負う命はいよいよ百億に迫ろうかという事態に至る。
 


 エネルギーもさることながら、深刻化した食糧問題は、太陽光発電の設置用地と農業用地との互いのパイを食い合う事態を引き起こし土地資源の物理的限界も危惧された。

 必要に迫られた農業効率の向上。土地資源限界による宇宙開発の必要性とそれによって求められるテラフォーミング技術。その二つを求め人類は、遺伝子工学に持てる科学力の多大なウェイトを割く事になった。

 自然を蔑ろにしてきた人類の文明が最後に頼る事になったのが、自然がもたらした生命の脅威であった事は皮肉なものである。


 
 様々な動植物や昆虫、菌類などの生態が急ピッチで研究、解明され生物のDNAが持つ力に人類に未来は預けられた。

 そして、人類の叡智は未来を照らす。

 温度や湿度の変化に強く、少ない水や養分で成長する穀類である植物を品種改良によって生み出す事に成功したのだ。さらに、この植物には耐放射能の特性を備えており、放射性物質を吸収、還元することで尋常でない速度での成長が見られ、大きく肥大化した実を収穫できる特徴を持っていた。

 そして、もう一つの成果は放射の物質を分解、人体への有害な影響を完全に無効化するバクテリアの人工生成に成功した事だ。

 この放射能物質の分解反応を持つバクテリアを上記の植物や生育する土壌で培養する事で、放射能の悪影響から完全に脱却できる。

 人類は食糧問題と、加えて放射性廃棄物の悩みからも解放されたのだ。

 宇宙での生活でもこの植物とバクテリアの組み合わせは活躍が期待された。宇宙線などにより、宇宙空間や月面には地球の地表面に比べ多くの放射線が存在し、それらをこの組み合わせは無害化してくれるのである。
 
 この植物の名前は「エメス」バクテリアの名前は「グラマドリン」

 人類の未来を照らしたこの組み合わせはエメスの真っ赤な花を冠し「 Wonder of vermilion〜朱の奇跡〜」と呼ばれる事となる。


 
 その後数年で、奇跡の朱色は地球を瞬く間に染め上げる事になる。

 エメスから採取されるでんぷんは加工し易くその種類にも富、人類の主食は一気にエメスに取って代わり、ありとあらゆる農耕地でエメスが咲き乱れた。

 さらに数年後、海を埋め立て作られて振興農耕用地にもこの朱は侵食していった。

 こうして、ガガーリンの「青い地球」は過去のものとなり、太陽系に光る朱色の惑星が新たな地球の姿となった。

 その、漆黒の宇宙空間に浮かぶ地球の姿は、まるでなにかを警告するかのように、赤々と輝いていた。



 その後、放射能汚染を心配せずに済む事によって、図らずも軽くなってしまった核兵器の引き鉄は、地球と人類に大きく深い傷跡を残すこととなった。
作品名:僕らのアカボシ 作家名:武倉悠樹