女傑撃剣を魅せる
名門女子大学が創立100周年を迎えた。祝賀行事が4日間に亘り盛大に開催され、最終日には「薙刀選手権大会」も開かれた。同大学の薙刀部は学校創立当初に発足、同部も100周年となる。数ヶ月前に招待状が届いた。
「100年か~」招待状を読み、返信ハガキに出席の旨を記し、出かけることに。当日、女子大の校門には、薙刀選手権大会の立て看板に「特別古武道演武会」が添え書きされていた。校内に入ると、新築された校舎に初夏の陽射しが眩しく輝く。
「さすがやな~、薙刀だけの道場か」体育館とは別に、六角形の屋根をした、立派な道場があった。100周年記念で建てられたようだ。
「先生、今日は有り難うございます。恐れ入りますが、こちらにご署名をお願いします」胴着を着た、受付約の女子大生が、奉書帳を差し出す。
「100周年おめでとう御座います。お招き有り難う御座います」と一礼、流派名を記すと、控え室に案内された。控え室と言っても、道場内の一角を、紅白の幔幕で仕切っただけである。中に入ると、既に、10数人の古武道関係者らが、着替え乍、談笑していた。
「あ~っ、〇〇先生、こんにちは」と、顔見知りの琉球古武道の大先輩が。
「先生、お久しぶりです、今日はよろしくお願いします」これをきっかけに、諸先生方と挨拶を交わす。剣術、小太刀、居合い、合気道、柔術、拳法、巻き藁試斬等など。今日は、青竹を二本持参していた。それを見て、目敏い、居合いの先生が。(何時も1本だから)。
「あーっ、〇〇先生、今日は2本斬るんですか?」
「え~、記念大会ですから、奉納用に1本やらせていただこうと、思いまして」
「そうでしたね!おい、うちも」と、門弟二人を呼び、何やら打ち合わせを始めた。この先生は念流を使うのだ。組太刀をやる。場内から、大きな拍手と騒擾が聞こえる。薙刀選手権大会が終わり、表彰式が行われているのだ。
「終わった、ようですね」誰に言うでもない、声が聞こえた。
「失礼します。先生方、お集まり下さい」と案内役の係りが、呼びに来た。今日招かれた古武道関係者らを、主催者が挨拶を兼ねて、見学者らに披露するのだ。場内に入場すると、ひな壇に向かって左右に胴着を着た女子大生らが居流れて座していた。後方の一般席に見学者が大勢いる。副学長が挨拶。次いで、薙刀選手権大会長が。
「遠路、当学園の100周年記念大会にお越し頂き、誠に有り難う存知ます。日本古来の伝統武芸を存分に拝見させてください、お怪我のないように、よろしくお願い申し上げます」と、深々とお辞儀する。場内中央で居並んだ30人余りの古武道関係者らは、無言で返礼する。
「それでは、諸先生方、ご準備のほどを、お願いいたします」手馴れた女性司会者のアナウンス。全員踵を返し、場内の後方へ退がった。演武は次々に行われ、その都度、惜しみない拍手と歓声があがる。恐らく、初めて目の当たりにする古流武道。終盤に近づき、巻き藁試斬の準備が。道場の中央に突起のついた高さ、60センチほどの台が置かれ、その上に巻き藁が突き立てられた。
「エイ、エイ、トウー」左右の袈裟懸け、左から右上に斬りあげる。藁は見事に斬りとんだ。一段と場内が熱気を帯び、歓声と拍手が止まない。刀身が陽光に反射、白刃が自在に煌くのだ。女性剣士も現れ。
「エイ、、ヤーッ、エーイ!」と、巻き藁を真横に、3度斬った。息を呑む観客。一拍遅れて盛大な喚声が沸き起こった。
「う~ん、上手いな~」感心していると、胴着を着た学生が来て。
「すいません、〇〇先生、工藤師範がお話があるとのことで、ちょっと来ていただけますか?」と。付いていくと、ひな壇の端で、同大学薙刀部名誉顧問の大会会長工藤師範(御歳74歳)が待っていた。
「先生、お呼びだてして、申し訳ございません、竹を1本頂戴できませんでしょうか?」と。
「えっ!、、、はい、かまいませんけど」薙刀の演武が最期にあるのだ。
「2本斬るつもりでしたけど、技を変えますわ。演武では2本使いますけど、1本残るようにしますから、どうぞ使ってください」巻き藁試斬が終わったようだ。台や斬り飛んだ藁が綺麗に片付けられた。その時、アナウンスが流れ。
「あ~っ、呼ばれましたんで、行ってきますわ」
「すいません、勝手を申しまして、よろしくお願いします、お怪我のないように」急いで竹を取り、道場の中央へ、径約5センチ、長さ1メートルの青竹を立てそれを台にして、その上にもう1本の竹を真横に載せた。いまにも倒れそうだ。丁度、Tの字の形になる。二間ほどの間合いを取り、立礼し帯刀。太刀返し(刀を太刀を佩いたようにすること)して、下から上へ抜刀、頭上で大きく旋回させ、間合いを一気に詰め右に飛ぶようにして、片手打ちに真横になった竹を狙い、気合を発し。
「ツッエイヤーッ!」と斬り下げた。横になった竹がほぼ真っ二つに斬り飛んだ。台にした竹には傷一つない。演武は数十秒で終わった。場内の呼吸が止まっていた。礼をして、退がった後。
「〇〇流兵法試斬、〇〇先生の演武でした。有り難うございました」のアナウンスが流れて、場内が呼吸をはじめ、拍手が起こった。胴着を着た女学生が場内を走る。竹が手元に、届けられた。
「すんません、この竹を、工藤先生に渡しといて下さい」台にした無傷の青竹を女学生に渡す。工藤トシ子師範、この女子大学出身で、薙刀の名手だ。薙刀部名誉顧問で、今日の大会会長である。
「はい、分かりました、有り難うございます、失礼いたします」竹を捧げて、礼を言われた。(そんな、たいそうなことやないんやけどな~)。
「これより、本日最終の演武をご披露頂きます。当大学薙刀部名誉顧問であり、本大会会長でもあります工藤トシ子師範です。では、工藤会長よろしくお願いいたします」左右に座していた、薙刀剣士達から大喚声と拍手が起こった。数人の胴着を着た女子剣士らが台を抱えて、ひな壇から少し離れた所に置いた。高さは40センチほどか。斬り台の上に青竹を立て、縛りつけて固定した。それを観て、下座の裾から、右脇に2メートル余りの本身(真剣)の薙刀を抱えた、工藤師範が進み出てきた。脇構えのまま、道場内の四方に向かって、ゆっくり一礼づつする。右半身に腰を落とし、すっーと立ち上がると。
「ヤーッ!」と掛け声を発し。薙刀を片手で左へゆっくり大きく回し、頭上で諸手にかざし刀速をつけ、振り下ろした。
「ヒューッ!」と刃鳴りがした。二度繰り返し、台座に縛った竹との間合いを詰めにかかる。薙刀の刃長は約50センチだ。柄の長さが180センチほどある。刀と違って、間合いが難しい。竹を睨み上げ、師範が小刻みに詰めにかかる。
「ヤー、ヤー、ヤーっ、!」と、つぎ気合をあげながら、薙刀を頭上でくるくると回し始めた。
「エーイッ!!」薙刀が左下から右上に、一気に斬りあげられた。
「ポン!」と、鼓を打つような音がした。斬られた竹が空中へ。
「100年か~」招待状を読み、返信ハガキに出席の旨を記し、出かけることに。当日、女子大の校門には、薙刀選手権大会の立て看板に「特別古武道演武会」が添え書きされていた。校内に入ると、新築された校舎に初夏の陽射しが眩しく輝く。
「さすがやな~、薙刀だけの道場か」体育館とは別に、六角形の屋根をした、立派な道場があった。100周年記念で建てられたようだ。
「先生、今日は有り難うございます。恐れ入りますが、こちらにご署名をお願いします」胴着を着た、受付約の女子大生が、奉書帳を差し出す。
「100周年おめでとう御座います。お招き有り難う御座います」と一礼、流派名を記すと、控え室に案内された。控え室と言っても、道場内の一角を、紅白の幔幕で仕切っただけである。中に入ると、既に、10数人の古武道関係者らが、着替え乍、談笑していた。
「あ~っ、〇〇先生、こんにちは」と、顔見知りの琉球古武道の大先輩が。
「先生、お久しぶりです、今日はよろしくお願いします」これをきっかけに、諸先生方と挨拶を交わす。剣術、小太刀、居合い、合気道、柔術、拳法、巻き藁試斬等など。今日は、青竹を二本持参していた。それを見て、目敏い、居合いの先生が。(何時も1本だから)。
「あーっ、〇〇先生、今日は2本斬るんですか?」
「え~、記念大会ですから、奉納用に1本やらせていただこうと、思いまして」
「そうでしたね!おい、うちも」と、門弟二人を呼び、何やら打ち合わせを始めた。この先生は念流を使うのだ。組太刀をやる。場内から、大きな拍手と騒擾が聞こえる。薙刀選手権大会が終わり、表彰式が行われているのだ。
「終わった、ようですね」誰に言うでもない、声が聞こえた。
「失礼します。先生方、お集まり下さい」と案内役の係りが、呼びに来た。今日招かれた古武道関係者らを、主催者が挨拶を兼ねて、見学者らに披露するのだ。場内に入場すると、ひな壇に向かって左右に胴着を着た女子大生らが居流れて座していた。後方の一般席に見学者が大勢いる。副学長が挨拶。次いで、薙刀選手権大会長が。
「遠路、当学園の100周年記念大会にお越し頂き、誠に有り難う存知ます。日本古来の伝統武芸を存分に拝見させてください、お怪我のないように、よろしくお願い申し上げます」と、深々とお辞儀する。場内中央で居並んだ30人余りの古武道関係者らは、無言で返礼する。
「それでは、諸先生方、ご準備のほどを、お願いいたします」手馴れた女性司会者のアナウンス。全員踵を返し、場内の後方へ退がった。演武は次々に行われ、その都度、惜しみない拍手と歓声があがる。恐らく、初めて目の当たりにする古流武道。終盤に近づき、巻き藁試斬の準備が。道場の中央に突起のついた高さ、60センチほどの台が置かれ、その上に巻き藁が突き立てられた。
「エイ、エイ、トウー」左右の袈裟懸け、左から右上に斬りあげる。藁は見事に斬りとんだ。一段と場内が熱気を帯び、歓声と拍手が止まない。刀身が陽光に反射、白刃が自在に煌くのだ。女性剣士も現れ。
「エイ、、ヤーッ、エーイ!」と、巻き藁を真横に、3度斬った。息を呑む観客。一拍遅れて盛大な喚声が沸き起こった。
「う~ん、上手いな~」感心していると、胴着を着た学生が来て。
「すいません、〇〇先生、工藤師範がお話があるとのことで、ちょっと来ていただけますか?」と。付いていくと、ひな壇の端で、同大学薙刀部名誉顧問の大会会長工藤師範(御歳74歳)が待っていた。
「先生、お呼びだてして、申し訳ございません、竹を1本頂戴できませんでしょうか?」と。
「えっ!、、、はい、かまいませんけど」薙刀の演武が最期にあるのだ。
「2本斬るつもりでしたけど、技を変えますわ。演武では2本使いますけど、1本残るようにしますから、どうぞ使ってください」巻き藁試斬が終わったようだ。台や斬り飛んだ藁が綺麗に片付けられた。その時、アナウンスが流れ。
「あ~っ、呼ばれましたんで、行ってきますわ」
「すいません、勝手を申しまして、よろしくお願いします、お怪我のないように」急いで竹を取り、道場の中央へ、径約5センチ、長さ1メートルの青竹を立てそれを台にして、その上にもう1本の竹を真横に載せた。いまにも倒れそうだ。丁度、Tの字の形になる。二間ほどの間合いを取り、立礼し帯刀。太刀返し(刀を太刀を佩いたようにすること)して、下から上へ抜刀、頭上で大きく旋回させ、間合いを一気に詰め右に飛ぶようにして、片手打ちに真横になった竹を狙い、気合を発し。
「ツッエイヤーッ!」と斬り下げた。横になった竹がほぼ真っ二つに斬り飛んだ。台にした竹には傷一つない。演武は数十秒で終わった。場内の呼吸が止まっていた。礼をして、退がった後。
「〇〇流兵法試斬、〇〇先生の演武でした。有り難うございました」のアナウンスが流れて、場内が呼吸をはじめ、拍手が起こった。胴着を着た女学生が場内を走る。竹が手元に、届けられた。
「すんません、この竹を、工藤先生に渡しといて下さい」台にした無傷の青竹を女学生に渡す。工藤トシ子師範、この女子大学出身で、薙刀の名手だ。薙刀部名誉顧問で、今日の大会会長である。
「はい、分かりました、有り難うございます、失礼いたします」竹を捧げて、礼を言われた。(そんな、たいそうなことやないんやけどな~)。
「これより、本日最終の演武をご披露頂きます。当大学薙刀部名誉顧問であり、本大会会長でもあります工藤トシ子師範です。では、工藤会長よろしくお願いいたします」左右に座していた、薙刀剣士達から大喚声と拍手が起こった。数人の胴着を着た女子剣士らが台を抱えて、ひな壇から少し離れた所に置いた。高さは40センチほどか。斬り台の上に青竹を立て、縛りつけて固定した。それを観て、下座の裾から、右脇に2メートル余りの本身(真剣)の薙刀を抱えた、工藤師範が進み出てきた。脇構えのまま、道場内の四方に向かって、ゆっくり一礼づつする。右半身に腰を落とし、すっーと立ち上がると。
「ヤーッ!」と掛け声を発し。薙刀を片手で左へゆっくり大きく回し、頭上で諸手にかざし刀速をつけ、振り下ろした。
「ヒューッ!」と刃鳴りがした。二度繰り返し、台座に縛った竹との間合いを詰めにかかる。薙刀の刃長は約50センチだ。柄の長さが180センチほどある。刀と違って、間合いが難しい。竹を睨み上げ、師範が小刻みに詰めにかかる。
「ヤー、ヤー、ヤーっ、!」と、つぎ気合をあげながら、薙刀を頭上でくるくると回し始めた。
「エーイッ!!」薙刀が左下から右上に、一気に斬りあげられた。
「ポン!」と、鼓を打つような音がした。斬られた竹が空中へ。