小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

繋がったものは1

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
定時上がりというわけにはいかないが、割とマトモな時間に家に帰れるようになった。有難いと言えば、有難いが、なんか、この先、またあるんだろう、と、俺は警戒は怠らないようにしている。

 午後から、クレーム電話の対応に疲れた嘉藤さんが、俺の部屋のソファで、一服休憩中だ。相手は、うちの社員の奥さんだったが、年末調整と住民税申告がごっちゃごっちゃになっていて、訳の判らない抗議だったらしい。

「相手が、女やなかったら、怒鳴るとこや。・・・・ったく、知識不足で言いやがるから、意味わからへん。」

 ぶつぶつと、コーヒーにタバコで愚痴っているおっさんは、俺より遥かに年上で経験豊富だが、それでも我慢ならなかったらしい。

「俺やったら、速攻で電話切る。」

「そんなんしてもあかん。無言電話かかってるぞ? せやけど、あほなんよ、あの奥さん。非通知にしてないから、誰からかモロバレしとるんや。」

「なんや、すでにやられてるんかいな? 」

「しばらく繋がんように言うたるから大丈夫や。なあ、みっちゃん、なんか外へ出られる仕事作ってくれへんか? 」

「んー、ほんなら、これ行ってきて。はい。」

 俺が書類を差し出したら、ものすごい顔をしたが、嘉藤さんは受け取った。それは、本社での定例会議と研修だったからだ。

「これ、東川さんが行かなあかんやつちゃうんか? 」

「誰でもええねん。会議って、決まった書類読むだけやし、研修かて、ちょこっと社長が話して、後の懇親会がメインや。泊まりでもええから行ってきて。」

 どうも、本社の人というのは、こういう決まりごとみたいなイベントが好きだ。形式的な定例会議なんて行くだけ面倒なので、俺は東川さんに押しつけているが、今回は、東川さんの娘さんの参観日とかちあって断られていた。見た目極道なおっさんでも、自分の娘には甘いらしい。

「金、土か。ほな、行かして貰うわ。」

「月例報告の書類だけ持って行って報告してきてな。用事は、そんだけ。後は食い放題飲み放題やから。遠慮せんと。」

「おう、わかった。」

 これに、俺が出席しないのは、いつものことだから、代理でも問題はない。社長連中は、俺の顔なんか見たくもないやろう。東海、中部と監査しまくって痛いとこ突きまくった自覚は、俺にもある。そういうヤなヤツは、顔出しせんほうが親切っちゅーもんや。





 後日、直属の上司の堀内から電話が入った。どうせ、嘉藤さんやから文句のひとつも言うたろう、やと思ってたら違っていた。

「世の中には興信所ちゅーもんがある。」

「はあ? 」

「不倫とか浮気調査が、メインやが、素行調査とか尋ね人探しなんちゅーのもやってる会社や。格好良う言うと、探偵さん。どや? 」

「何が、どやなんや? 」

「知ってるか? 」

 このおっさん、人をおちょくるために、わざわざ電話してくるアホなんで、いちいち、構ってはいけない。すかさず、プシッと携帯を切った。そして、電源も落とす。しつこいから、何度でもかけてくるのだ、このおっさん。

 すると、今度は内線だ。相手は、もちろん、堀内で、渋々、取次ぎを受けた。

「会社の備品使こうてまで、からかわなあかんか? 」

「どあほ、最後まで聞かんかい。とある興信所から、わしとこに、おまえの行方を尋ねてきよったから教えたろうと思ったんじゃ。」

「俺? 誰が? 」

「そこまで聞いてへん。どうする? 」

 どうするも、何も、探される意味がわからない。浪速の家とは、十年以上前に縁は切れているし、それからは、堀内のおっさんとこで働いていたから、その関係者なんてのも、ここに勢揃いしている。俺を金出してまで探すヤツというのに、心当たりが、まったくない。

「それ、ヤクザさんとか闇金さんとかかな? 」

「いや、そっちやったら、わしに直接、当人が連絡してきよる。おまえが、わしの愛人っちゅーのは、有名やさかいな。」

「せやけど、素人で、俺を探すて・・・・誰よ? 」

「おまえ、最近、孤独な老人に親切とかしてへんか? それか、迷子を助けたったりとか? あとは、ああ、お約束なん忘れとった。歓楽街で悪いヤツに連れ込まれそうになった娘を助けたったとかやな。」

「日活浪漫ポルノの世界は古すぎや。」

「まあ、お笑いはここまでにして。たぶん、浪速の家ちゃうか? おまえが、わしんとこで働いてたん知ってるんは、そこやろ? 」

「俺んち? けど、俺、あっちの連絡先も居場所も知らへんぞ?」

「相手もせやろ? せやから、興信所使こうてるんちゃうか? 」

 確かに、俺の家は、俺が家を出てから引越しした。行き先は聞いてない。あの頃、携帯電話なんてものがなかったから、連絡先もわからない。こちらにしても、家を出て自活すると報告はしたものの、どこへ住むとかいうことは知らせていない。あれから十数年、まったく音信不通だった。血の繋がった親と兄弟はあるが、一人だけ鬼子で、浮いていたから、家族との心温まるエピソードなんてものもない。ないないづくしなので、笑うしかない。

「それ、放置しといて。」

「そうやろうなあ。今更や。」

 俺の答えなんて判っているくせに、堀内は報告だけはくれた。そのうち、俺の周囲になんか出て来るかもしれない。その用心のためだ。

「みっちゃん、相手が誰であろうと気ぃつけや。おまえの仕事は、金が動くからな。」

「そこやんな? あーあーあー、とうとう、俺は家族にまで追われるんかよ。」

 右から左に金を動かしているので、不正に誘われ易い身分だ。だから、堀内は釘を刺す。だが、俺が金をネコババするのは、亭主のためだけだから、そういう心配はない。俺の旦那が、金のかかる病に犯されたら、俺は周囲にバレないように、金をちょろまかすつもりだ。今のところ、至極健康体で、その心配はない。ただ、一度でも業務内容を知られると、延々と誘われることだけは確定する。

「興信所への依頼が、誰なんかは調べる。ただ、わし、今、中部から動かれへんから、ちょっとばかり手間かかるんで待ってくれ。」

「それはかまへんけど。先に俺が発見される場合もあるで? 」

 興信所が、俺の行方を単独で探し出すことだってある。だが、堀内は楽しそうな底意地の悪い笑い声だ。

「ははは・・・そら、そっちのほうが好都合や。発見されたら、東川にでっかい釘刺してもらえ。たいがい、あの顔で、みな、びびる。」

「おっさんも人のことはいえへんと思うで? 」

「なに、ぬかす? わしは色男の部類じゃ。おまえ、メガネ買い換えろ。」

「おっさんこそ、老眼鏡の度を強したほうがええ。」

 しばらく、沈黙する。堀内が、小声で、「気ぃつけや。」 と、真面目な声で告げて電話を切った。誘拐されることはないだろうが、監視されるのは迷惑だ、と、俺は息を吐いた。昔のように現ナマは扱わなくなったから危険は減ったが、その代わり暗証番号だのパスワードは、俺の左脳に記録されている。これを奪いたい場合は、俺を確保して吐かせるしかない。

・・・・いや、そういうんやなくて、ほんまに孤独な老人とかやったりしてな・・・・・
作品名:繋がったものは1 作家名:篠義