優しい弾丸
そして彼は悟る。アシケペチは真に英雄であったのだと。彼程崇高な人間は、存在しない。ただの人間でありながら、同じ人間達を庇護し、戦場における命のやり取りを可能な限り減らそうと神経をすり減らし、それでもなお、最期には己の命を賭して、全ての国民の平和を守ろうとした、どこまでも人間臭い、人間。彼は生きた。精一杯生き、ムニンのように、死んでいった。アペトゥムペは胸が透く思いがした。自分達は、守られていた。守ろうとしてくれた人がいた。
この戦場では、何も得られないと一度は思った彼だが、今は違う。
人が、人の命を守る、懸命でどこまでも純化された行為の尊さに気づいた。
陽の光が射す中、アペトゥムペは戦場を見渡した。ぽつりぽつりと脱退していく兵士の後ろ姿が見える。『終わった』全ては、終わったのだ。自分達の未来は、これから始まる。彼は強く決意した。命を育み守る、二人の傑人が教えてくれたその真理を、体現してゆく人間になろうと。
一人の兵士が最期に残した言葉は、崩れた砲台の底に残る、砲弾されなかった弾丸のように、それはもう、限りなく優しいものだった。