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タクシーの運転手 第六回

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「おや、いろいろ話していたら、着きそうですね。どうします?」
「ど、どうしましょう…。さすがに、戻るわけにはいかないし」
「確か、この辺りにバス停があるはずです。富士急行バスです。それに乗れば、富士吉田駅に行けます。あと、西湖の南に民宿があったので、そこを利用するのもいいかと」
 すらすらと、地図も見ずに運転手は言った。
「そうですね~。まだ、そんなに遅くないので、バスに乗って帰ろうかなと思います」
「わかりました」
 運転手はハンドルを切った。
「本当にありがとうございます。あなたは僕の命の恩人ですよ!」
「いやいや、そんな大それたものではないですよ。ただ及ばずながら、お言葉をかけただけですよ」
「その謙虚さ、見習いたいですね」
 彼はうんうんと頷き、関心していた。
「すいませんが、お名前を教えてはいただけないですか?」
「いやそれはちょっと…。過去にも何度か聞かれたことありますが…」
「そんな堅いことおっしゃらないで」
 彼は実に元気そうであった。
「そうですね…僕は職場では、タカさんと呼ばれています」
 やはり本名は名乗らなかった。
「タカさん、ですか。僕の名前は、伊藤慎です」
「慎さんですね。いい名前だ」
「それはどうも。タカさんか、職場ではどんな感じなんですか?」
「割と普通ですよ。仲のいい同僚や面倒をかけてる後輩もちゃんといますよ」
 運転手は微笑みながら言った。
「そうですか。なんか頼りになりそうですからね。きっと信頼されてますよ」
「そうですかね。そうだと嬉しいです」
 謙虚に笑った。
「そろそろ、バス停ですね」
「もうですか…。本当短い間でしたけど、ありがとうございました。よければ、また会いたいです」
 名残惜しいそうだった。
「そうですね。僕はいろいろなところを、この日産・セドリックセダンで走っていますからね。もしかしたら、また会えることがあるかもしれません」
「そうですか、じゃあそのときを、楽しみに待ってます」
 彼は笑顔で答えた。その笑顔はまぶしかった。
「はい、着きました。お疲れ様でした」
「どうも。またいつか!」
 そう行って、彼は車を降りて行った。彼が手を振ったので、運転手も振り返した。
「いやー、それにしてもグランジみたいな服装だったな」
 そして再び彼の車は走り出す。
 どこまでもどこまでも。