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タクシーの運転手 第六回

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「いやはや、どうもどうも」
 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。
「どこに行かれますか?」
 彼は客の男性に問いかけた。
「…」
 黙ったままだった。
「あの~、お客さん。どちらに?」
「はっ、すいません。えっと…」
 男性は目が虚ろで、ぼーっとしていた。
「…青木ヶ原樹海に」
 小さい声で言った。
「はい、わかりました」
 彼はハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
「そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」
「僕ですか?普通の会社員でした」
 下を向いたまま答えた。
「そうですか、では今は?」
「今は…」
 彼は黙り込んでしまった。彼の服装は、擦り切れたネルシャツに穴の開いたジーンズにスニーカーというものだった。
「それで青木ヶ原樹海にはどのようなご用件で?」
「それは…」
 またも彼は口ごもってしまった。言いにくそうだった。
「答えたくないときは答えなくていいですよ。そういうときは誰にでもありますからね」
 車は信号で止まった。
「おやおや、混んでいますね。少し時間がかかりそうですよ」
「そうですか…」
 返事はしたが、言葉を聞き取るのが難しいほど小さな声だった。