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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア夏

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石間 へ

手紙ありがとう。俺も書いてみることにしました。
とにかくばあちゃんちは田舎で、遊ぶ場所もないし、テレビは入らないチャンネルもある。
受験勉強始まったって感じです。
アイス食べ過ぎて腹壊すなよ。新学期会おう。

木野 より

 俺はコレクションの中から夏っぽいイルカのポストカードに、短くそっけなく返事を書いた。ただの友人然として。ずっと奥深くには、会いたいって気持ちも込めて。
 しかし石間に送ったはずのポストカードは戻ってきた。切手を貼り忘れていたからだ。
 もう明日学校が始まってしまうから、ちょっとどころじゃなく、かなり格好悪い。遅れて出すのも変だし、手渡しなんて意味不明だし。
 間をとって、自分で石間宅のポストに入れに行くことにした。
 玄関のポストにポストカードを落として、せっかくだし、とピンポンを押した。ほんとはポストカードなんかはどうでもよくて、ただ石間に会いたいだけだったのかもしれない。
 インターホンで確かめることもなく玄関ドアが開いた。ちなみにウチにインターホンは付いてないから、いつもこんな感じで違和感は無いんだけどね。

「…木野」
「…あ」

 出たのは、石間本人だった。丹念に癖付けしたヘアスタイルじゃない、寝癖の石間だ……。
 一瞬目を見開いただけで全然動揺してるかんじはしなかった。逃げ出した俺とひと月ぶりに顔を合わせたのに、怒りも喜びもなんにも浮かばない無の表情で、俺はうろたえた。

「俺に会いに来てくれた?」
「うん」

 そっか、とは言われなかった。じっと見てるようで視線は合わない。土間のサンダルを一足踏み付けてドアを押し開けてる体勢が申し訳なってきて、俺はドアを閉めようとした。

「悪い、帰るよ寝てたんなら」
「や、上がって」

 石間に腕を掴まれて、気付いたら石間の部屋のベッドと机の間の床に座らされていた。この部屋、なんだか空気が澱んでる。
 お馴染みのジュースが出されなかったのも、少し悲しくなった理由のひとつだ。リプトンの小さいペットごと手渡されたから。

「悪い」
「連絡くれなかったから? 俺が寝てる時にウチに来たから?」
「どっちも」

 連絡は、できなかったんだ。厳密には『出来ないように仕向けた』だけど。

「木野はいつこっちに帰ってきたんだ?」
「一昨日だ」

 石間の無表情に驚きが浮かんだ。同時に、手紙はよんだのかと目が訴えてきたけど気付かない振りをした。

「明日学校だな」
「ああ…」
「夏休み、楽しんだか?」
「まあ、な」

 多分石間の仲間は賑やかだから、こういう長期の休みには飽きることなく楽しめるんだろうな。
 そこに俺はいることができないけど、やっぱ石間がいい思いをしてくれたらそれでいいじゃん。

「木野は?」
「ん?」
「木野は俺といなくて楽しかったんだな?」

 なんだそれ。楽しいわけないよ。

「全然」
「そっか」

 石間は飲みかけだった自分のリプトンを空けて、ベッドに横になった。
 そこで初めて目が合って、石間の視線が熱いことに気付いた。

「石間」
「なんだ」
「俺やっぱ帰るよ。熱、あるんだろ」

 俺の呟きに石間はとんでもなく切なげな笑顔を作って、180cmにいくらか足りないでかい体を縮ませコクコクと頷いた。そして急に真顔になった。

「いや、違う。帰んないでくれ」
「だいぶ辛いんだろ」
「…ああ」

 石間はまた笑った。
 具合が悪いのがそんなに嬉しい事とは思わないけど、笑うから、俺のリプトンをおでこに当ててみた。すうっと目を閉じて、石間はまた俺の腕を掴む。

「移ったら悪いけど、木野が嫌じゃなかったらここにいて欲しい」

 嫌じゃないけど。
 なんか、後ろめたい。

「ずっと調子悪かったんだが、気付いてくれたのは木野だけだ」
「…そっか」

 石間が眠るまで。
 その後は恋人の仕事になっちゃう気がして石間の母親が帰って来たのをいいことに、俺はそっと家を出た。
 ポストカード、もう少し気のきいた事を書けばよかった。

作品名:ブローディア夏 作家名:しらとりごう