小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

トランクに押し込めちゃう☆

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

***

 海の見える別荘。
 満天の星空。
 防音完璧の地下のワインセラー。
 そこにあるお姫様が座るみたいなロココ調の素敵な椅子。
 そしてそんな椅子に座る彼はロココの花。椅子に縛り付けられて、足枷をされた私のサン・ジュスト!

「……帰してくれ」

 暗い眠りから目覚めた彼は、この状況に引き攣った表情を見せた後項垂れた。そして出た言葉がこれ。

「ん?」
「帰してくれ……」
「バカ言うな!」

 バチコーンと彼の頬を思いっきりひっぱたいたわよ、私。思わずよ、思わず。なんかビックリしちゃって。

「あんた私がここまで連れて来るのどれだけ大変だったと思ってるのよ! 寒い中ずっと待ってたのよ! 探偵かよ! 神宮寺かよ!」
「……俺が悪かったから、だから」
「謝って済む問題じゃないだろ!」

 今度はグーで彼の顎を思いっきり殴りつけた。手が痛い。彼はぐぼっとか言いながら、口から血を流している。そんな事より右手が痛い、ああ。いつもするめばかり食べている彼はその分顎の骨が丈夫なのかしら。尋常じゃないくらい彼を殴りつけた右手が痛いの。ああ!

「本当に……すまなかったと……思っている……」

 小さな声で彼が謝罪の言葉を述べている。

「声が小さいわ! 聞こえねぇよ! 馬鹿たれ!」

 手が痛かったので、今度は彼の腹部に重たい蹴りをぶちかました。これはいい。私のダメージが少ない。

「すみませんでひた!!」
「なにちょっと噛んでんだバカヤロー!!」

 20数時間ぶりにデカイ声を出して、思わず噛んじゃった可愛い彼に再びキックをプレゼント。彼の口から涎か胃液かよく分かんない物がダラダラと垂れてきている。汚い。でも可愛い! 生まれたての小鹿が身にまとってるアレみたい!

「本当に……悪かったと思っている……でも、俺は……」
「結局家族の元に戻ったゲロ野郎!!」

 今度は殴りも蹴りもしなかった。

「すまない……」
「すまないじゃすまないって言ってるのよ!! 私いくつだと思ってんの!? 今年でもう30よ!? 三十路なのよ!? 同級生はみんな結婚して子供もいるのよ!? あんた私に何してくれた!? 23から、付き合って……。あんたが結婚してる事なんて知らなかった。知った時にはもう好きになってた。23から30までの7年間。女が一番綺麗で可愛くてもてはやされる7年間を私はあなたに捧げたのよ? その仕打ちが、クリスマスに別れを告げると言うアレ? 何が最後は綺麗な思い出と共によ、いらんわ、そんな思い出! 巨大ツリーの前で本当は殺したい位の殺意が湧いてたわ、こっちは!!」
「…………」
「でた~~! お得意のダンマリですか! いっつもそう! 都合が悪くなると、あなたはいっつもそう!! 言っておくけどね、私は伊達や酔狂でこんな事してんじゃないのよ。女の23から30という時間は人生のセンター試験なの。その時期をドブに捨てたって事は、私の人生はもう終わってるの。終盤なの。余生なの。30にして既に余生なの。分かる?」

 そこまで言うと、一つ息をついて。
 私は1トーン低い声で宣言した。

「私はもう人生捨ててるから。人生捨ててあなたとこうしてるわけだから」
「…………」
「帰れるなんて思わないでね。今からのあなたの人生は私のものなんだから。大丈夫よ、欲しいものは何だって買ってきてあげる。二人で楽しく過ごしましょうよ。私ね、夢だったのよ。あなたと穏やかな余生を過ごす事が」
「…………っ」

 小さく呻くと、彼は一筋の涙を流した。
 今さら遅い。
 あんたが妻や子供と笑っているその裏で、私がどれだけの涙を流してきた事か。
 大学を出たばかりの新入社員で、世間知らずだった私は、あなたにとっていいカモだったでしょうね。でもね、あなたは甘かった。7年も過ぎれば、カモにだって知恵がつく。そして何より行動力がつく。

 あなたの奥さんはあなたがここに囚われている事を知らない。
 そして私の存在も知らない。

「会社の方は大騒ぎになるでしょうね。でも物騒な世の中ですもの。何も行方不明者は珍しい事じゃないわ。大丈夫。私がしっかり養ってあげる」

 ゴォンゴォンと遠くで除夜の鐘が鳴っている。
 あら、これはまるで……。

 まるでウェディングベルみたいじゃない!?


 やだぁ、ロマンティック~~~~~~!!
 神様ってば超粋~~~! 海老蔵より粋~~~!!


 なんだか来年はいい年になりそう!
 そんな予感が胸いっぱいに広がる。

「そうだ、年越し蕎麦食べなくちゃね」

 そう呟くと、私はキッチンへと向かった。

 彼にお蕎麦を作ってあげなくちゃ。
 彼の大好きなネギが沢山入った温かなお蕎麦を。