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トランクに押し込めちゃう☆

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 ハァ―……ハァー……。

 しんとした冬の夜。私の呼吸は黒い世界に白色を浮かびあがらせては消えていくのを繰り返している。私以外は誰もいない路地裏。少しばかり荒くなっている私の息以外は何も聞こえない星の綺麗な静かな夜。
 赤くかじかむ手にはエタノールを馬鹿みたいに染み込ませたハンカチ。それをギュッと握りしめると、私は一度大きく息を吐いた。

 もうすぐ彼がここを通る。

 今年最後の仕事を終えて、家族と一緒に新年を迎える為に。

 時刻を見ると午後9時2分。彼の乗ったJRは5分前に駅に到着したはずだ。彼はそろそろここを通るだろう。後ろを振り向くと、そこには愛車の真っ赤なボルボが停まっている。うん、大丈夫。距離も完璧だわ。
 誰にでも無く小さく頷いた時、聞きなれた靴音が私の耳に届いた。

 ――――間違いない、彼だ。

 路地裏に身をひそめ、彼が通りすぎるのを待つ。
 じっと。息を殺して。

 コツ、コツ、と静寂の中に靴音を響かせて彼は私のすぐ近くを通り過ぎていく。
 今だ! 私は勢いよく飛び出すと、彼に後ろから飛び付いた。

「っ!?」
「サァ~プラ~イズ!」

 息を飲んだ彼の顔に思いっきりハンカチを押しつける。後ろから手探りで彼の鼻と口を塞いでいく。

「ぐぉっ!」

 くぐもった声を上げて、私の手を引き剥がそうと暴れる彼。でも離れないから!

「サプライズ~~。サプライズ~~~! 記念日の~~~、サプライズ~~~!」

 よく人から「カンに障る」と言われる私の高い声が静かな夜に響き渡る。

「サ~プラ~~~~イ」 

 ズを言う前に、彼はぐったりと崩れ落ちた。
 歌うように朗らかに私は彼を気絶させると、そのまま力を失った彼をズルズルと引きずりながら、車の方へと歩みを進めた。
 弛緩しきった彼の体を移動させるのは、ウォーターサーバーの水替えより腰にくる。

 ああ、辛い。
 愛って辛いわ。そして重いわ。

 このクソ寒いのに額に汗すら滲ませて、やっとの思いで愛車の前へ辿り着いた。
 後部座席から用意しておいたガムテープとロープを取り出すと、まずはガムテープで彼の口を塞いだ。目を閉じ気を失っている彼の顔を見ていると、愛しさが込み上げてきたのでガムテープ越しに口づけを交わす。ロマンティック!
 ハァーハァーと息をあげながら、続いて彼の両手を後ろ手に縛り上げる。ギューっと、念入りに。勿論足を縛る事も忘れない。ガッチリと膝と足首を真っ赤なロープでホールド。身動きが取れなくなった彼は、思った以上に美しかった。ビュレホ! 世界にも通用するわ、この美貌は!

 そんな事を思いながらトランクを開ける。ここが彼の年末のスペシャルプランなお宿。素敵じゃない。私、狭くて暗い場所って大好きなのよ。小学生の頃はいつも机の下の椅子を入れるスペース、あそこでお菓子食べてたわ、私。最高に落ち付くのよね。

「ふっ」

 ひとつ大きく息を吐くと気合いを入れて、私は彼を荒々しく掴んだ。
 正確には彼の手首のロープと膝のロープを。最高に重たくて指が千切れそうだったけど、これは愛の重みだから! 喜びの重み! そう自分を叱咤激励して、彼をなんとか持ち上げると、そのままの勢いでトランクへと放り投げた。彼が小さく呻いた気がするけど、そんな些細な事は気にしない。
 トランクを勢いよく閉めると、手をストレッチさせながら上機嫌で運転席へと乗り込んだ。エンジンをかけて、シートベルトを装着。さぁ、行くわよ。愛の巣へ!
 アクセルを踏むと、小気味のいいエンジン音が私の気分を否応にも盛り上げた。
 サプライズ! サプライズ~♪