むべやまかぜを 2
「まあ、それは、今回は、やはり記憶に残る作品ということで決まったことですし、そういうことで、ここはひとつ!」
ハゲの高原が調子よくそのように取り成し、そこで丸山花世も適当に頷いた。
――どうもこの連中は……山田のダンナや伊澤のおっさん、たっつんなんかに比べるとちょっとというか、相当劣っているな。
花世はそんなことを思っている。
「それに、ね、どうせ同人ですからね」
三重野が言葉を続ける。
「同人のゲームならばね、一度ぐらいコケたってたいしたことないんですよ」
「……」
コケるのを前提に作品作り。
それは……そんなのでいいのか? 物書きヤクザは苦い顔をしているすが、その意味を、グラップラーの面々は理解していない。
「それで、コンセプトはいいけどさ。何すんのよ? 記録よりも記憶って、そんなことはどーでもよくてさ。どういう方向性の作品作るのかとか、そういうの決まってんの?」
「いや、ね、それはね、まだなんですよね」
三重野ははっきりと言った。
「まだほとんど決まっていないわけでしてね、これからみんなでブレインストーミングをしてですね、やっていこうと」
「ブレインストーミング、ね……」
花世は露骨に嫌な顔をした。
「あんまりそういうのは感心しないと思うよ。船頭多くして船山に登るって言うし」
少女の悪態に、またも雨宮が敏感に反応して顔をゆがめた。グラフィッカー殿は生意気な小娘の発言がいちいち癇に障るらしい。だが、少女のほうはまったく気にしない。
「三重野さんっつったっけ? 作品って『作りたい』っていう強い意欲が無ければ生まれないよ」
「……」
丸山花世は遠慮というものを知らない。
「これを作りたい。こういう作品を作りたい。どうしてもやってみたい。そういう熱いハートがないと作品って成り立たない。成ったとしてもお客の心に届かない。はっきり言えばコンセプトなんて後付けでもいいんだよ。まずは作品を作る。なんでもいいよ。イラストあげてもいいし、シナリオあげてもいいし……話はそれからだよ」
「えーとですね……それでしたら……」
それまで黙っていた影の薄い神田が口をはさんだ。
「あの……一応ですが、いろいろと社内でも話をしておりまして……」