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三題噺シリーズ

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大晦日うp


テーマ :賀正 皇帝ペンギン クリームシチュー



 お正月。それは、郵便局のスケジュールの中でもっとも多忙となる期間の一つである。普段は話しにくいことや、遠くに住んでいる人へとご挨拶できる素晴らしいものだと人は言う。
 しかし。それなら普段から文通しろよ、近くにいる奴へは年初めに会ったとき挨拶すればいいだろう、と俺は思うのだ。なぜなら、俺の貴重なお正月の三が日は、家の手伝いと称した年賀状配りでほとんどが消える。周りの友達はおせち料理やら、お笑い番組やら、寝るやらで自由気ままに過ごしている。俺だってそんな正月を過ごしてみたい!
 というわけで、今年は年賀状配りの仕事をストライキすることにした。

        ○

 冒頭部分でえらそうに語ってみものの、ストライキは失敗した。
 二つ下の妹と一つ上の姉に逃げようとしたところを見つかり、2対1だろうが相手は女だ、と少し油断したらあっさりと捕らえられた。俺の名誉のために言うが、俺が弱かったわけではない。人数的に不利だっただけだ。
 そして、心配性でとことん子供に甘い母さんが「寒いから嫌だったんだよね」と俺に言いながら、達磨にでもする気かと言いたくなるくらい大量にセーターを着せてきた。さらに、郵便局の青い制服(ダサい)を羽織らされた。細身な俺の体は見る影もなく、今ではよてよて歩くペンギンにしか見えなかった。一言で言うと、俺が可哀想だった。誰か俺に愛の手を。
「お兄ちゃんの分、これね。逃げないでよ」
「マサ、これはど田舎の郵便局の子供に生まれた宿命なんだよ。もういい加減受け入れな」
 どさどさどさー、と目の前に輪ゴムでくくられた大量の年賀状。・・・・・・明らかに去年より増えている。
「「じゃ、がんばってー。行ってきまーす」」
 こうして、俺の姉妹2人は違う方向へと、雪の中を走っていった。
 もう一度、確信を持って言う。
 俺が可哀想だ。

        ○

 一軒目。朝四時。なんでこんなに山奥に住んでんだこの家の奴は!電気通ってんのかここ!と言いたくなるような場所にある家だった。
 山奥の家によく似合う古い郵便受けに、がちゃん、と束になった年賀状を入れる。
 うちの郵便局では、輪ゴムにくくった年賀状の一番上に『郵便局からの年賀状』というのを入れている。売れ残った年賀状の中から、身も蓋もなく言ってしまえば何枚かパチって、それらに大きく『賀正』とだけ大きく印刷する。
 赤い文字だから縁起よさそうに見えるし、今時流行りのシンプルイズベスト、でもある。何より面倒がないので、俺が友達へ送る年賀状はすべてこれだ。「だから友達が少ない・・・・・・」とうるさい姉妹がいるが、毎年無視している。
 ちなみに、デザインしたのは俺だ。あの2人には散々に言われているけど、『郵便局からの年賀状』は結構評判がよくて、デザイナーとしても鼻が高い。


「・・・・・・・・・・・なんだこの家」
 二軒三軒、とまわっているうちに、最後の家に着いた。
 このど田舎の寂れた風景には似合わない、『キラキラ』と効果音をつけたくなるような、新築っぽい外国風の家が建っていた。というか、いつこんな家ができた。普通もうちょっと噂にならないか?
 呆れすぎて笑いそうになりながら、これまたきれいな郵便受けに、本日最後の年賀状を入れようとした。まさに入れようとした、その時だった。
 外国風の家の扉が、開いた。

        ○ 

 そこから先はあまりよく覚えていない。家にぴったりの金髪のねーちゃんが出てきて、何か言った。英語の成績がすこぶる悪い俺には、「oh!」ぐらいしか聞き取れなかった。
 それで、よくわからないままに家の中に引きずり込まれて、中にいる外人のおっさんたちは酒を飲んで酔っ払っていて、俺のことを見て何か言いながら笑っていた。聞き取れなかった。
 多分、家の中にあった大量のクリスマスプレゼント(もう新年明けたのに)の中から、全体的に青っぽい、下腹の重そうな皇帝ペンギンの人形を引っ張り出して、「HAHAHAHA!」と笑いつつ俺にくれたので、多分「このペンギンみたいだな!」とでも思われてたんじゃないだろうか。酔っ払っているからとはいえ、結構失礼な話だった。でも、確かに今の俺と似ていた。
 それで、最初に出てきた金髪のねーちゃんが、俺にクリームシチューを出してくれたことは覚えている。エビやイカなんかが入った、海鮮のシチューだった。
 感動的だった。
 涙が出そうなくらい美味かった。にんじんとか、たまねぎとか、そういうただの野菜がとろけるように甘くて、もちろんエビもイカも筋張ってなくて、とにかく、信じられないくらい美味かった。家で食べるシチューとは、母さんには悪いが大違いだった。
 夢中でそのシチューを食べていたら、完全に酔っ払っているおっさんが近づいてきて、何か大声で叫び、歌を歌いながら俺の背中をバンバン叩いた。どうやら食いっぷりが気に入られたらしい。
 そしてその後、俺は酒を飲まされたようで、記憶がない。


 気が付いたら、辺りはすっかり暗くなっていた。知らない人、しかも外人の家の中で、ダッサい郵便局の制服を着て、片手にシャンパンのビン、もう片方に皇帝ペンギンのぬいぐるみをにぎりしめて、大の字になって寝ている俺。
 まわりのおっさんたちや金髪のねーちゃんはまだぐうすか寝ていたので、俺はその人たちを起こさないよう、なおかつ大急ぎで家に帰った。さすがにパニック状態だったので、無意識のうちに皇帝ペンギンのぬいぐるみとビンを握り締めたまま、雪が降る道を走っていった。

       ○
 
 家に帰ったら、「どこに行ってたんだ!」と親父にこっぴどく叱られた。
 姉、妹からは「だっせぇ」と笑われた。
 「無事でよかった」と母さんに号泣され、周りの家族に冷たい目で見られた。
 罰として、今年の年賀状の残りはすべて俺が配ることになってしまった。
 今は、酒の飲みすぎのせいか、恐ろしく頭が痛い。吐き気もしてきた。

 今年のお正月、良かったことは、あの金髪のねーちゃんが出してくれた海鮮クリームシチューだけだった。
 くどいようだが、何度でも言おう。
 俺が、本当に、心のそこから、可哀想だとは思わないか?

作品名:三題噺シリーズ 作家名:ツイスター