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僕は美夜子ちゃんが嫌いです。

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 星彦はぎゅっと眉毛を顔の真ん中に寄せて一人で難しい顔をし始めた。美夜子ちゃんと星彦はかなり年が離れてるけど、お兄ちゃんが美夜子ちゃんの四つ下の幼馴染だから、一応美夜子ちゃんと幼馴染ってことになるらしくて星彦は美夜子ちゃんのことを美夜子って呼ぶ。僕としては凄く納得がいかないんだけど美夜子ちゃんがいいって言ってることを僕がどうこう言うつもりはないし美夜子ちゃんなんてどうでもいいもん。
「喧嘩じゃないよ。ただ美夜子ちゃんがうるさかっただけ。」
 口を尖らせてふて腐れながら言うと、星彦はたかが僕より四つ年上なだけのくせに、まるでどっかの主婦みたいなしみじみとした口調で溜息をついた。
「龍太郎また夜更かししたんだろう。本当、美夜子の苦労が目に浮かぶよ。」
 まったく、どいつもこいつもなんで美夜子ちゃんの肩ばっかり持つんだよ。なんかものすごく頭にくるからうんうん1人で勝手に頷いてる星彦の足を思いっきり踏んづけた。
「いったぁ!!いきなり何するんだ。」
「星彦が美夜子ちゃんの肩なんか持つからだよぉだ。って痛!!」
「拗ねて人に当たんないの!星彦別に悪いことしてないじゃない。」
 手加減ってものを知らない小百合ちゃんの拳は美夜子ちゃんが本気で起こった時ぐらい痛い。でもなんで悪いことしてない僕が殴られなきゃいけないわけ?
「痛いなぁ!!そんな乱暴だから百合さんそっくりって言われるんだよ!!」
「あ!ちょっと今、家のママ馬鹿にしたでしょ!もう一発殴るわよ!」
 本当に美夜子ちゃんの姪っ子だけあって凶暴さも大して変わんない。っていうか僕絶対病院でとり間違えられたんだ。もしくは浦葉さんの連れ子だ。でなきゃ、僕の一体どこに小百合ちゃんや美夜子ちゃんと同じ血が流れてるってのさ。
「まぁまぁまぁまぁ。俺はもう、大丈夫だから小百合も落ち着いて。」
 小百合ちゃんは不満そうな顔したけど、フンッと鼻を鳴らして怒った口調のまま言い放った。
「今回は星彦に免じて許してあげる。」
だから僕が悪い事したわけじゃないのになんで僕が悪いみたいになってんの?
「僕、別に悪いことしてないのに、皆が僕を悪いみたいに言うからいけないんだよ。」
「龍太郎。」
星彦ってすごく感受性が強い。勝手に1人で解釈して、勝手に1人で結論付ける。だからこんな風に両肩に手を置いて話し始めたりしたらほぼ間違いなく、勘違いのお説教が始まる。なんとかして抜け出さなきゃ。
「あのな・・・。」
星彦が話し始めようとした瞬間。すぐそこの入口から気の抜ける古ぼけたチャイムの音が響いた。これ幸いってこういうことを言うんだ。星彦の手を振り払って僕は走り出した。
「あ、こら!龍太郎。」
「ほらほら!星彦も遅れちゃうよ!!」
「だから待ちなさいよ!龍太郎!」

僕は絶対悪くないもん。



「ってことがあってさぁ。」
バスケットボールを投げながらぺちゃくちゃと喋る友達はさっきから何度も同じこと言ってる。なんかもう飽きてきたなぁ・・・。
「そういえばさ。こないだ母ちゃんとトランプしたら全戦全勝でさぁ。」
僕は自分の耳を疑った。ありえない。小学二年生にもなってまだお母さんと遊んでるやつがいたなんて。
「は?お前、お母さんと遊ぶの?ありえないよ。ひろしってマザコン?」
そう言って回ってきたボールを思いっきりひろしに投げ返した。
「違ぇよ!つか普通に母ちゃんとは遊ぶくね?なぁ?」
 ひろしが受け取ったボールを投げながら、ついでにつよしに話を振る。てか、クラス一クールと評判のつよしに聞いたってひろしのマザコンが確定するだけじゃん。
「いやいや、俺んちは別にそんないつでも一緒に遊んでますぅみたいなそんな感じじゃないけどな。まぁ、それなりには?」
で、またボールが僕に帰ってくる。ってかもしかしなくても多数決で負けてるのって僕のほう?
「えー、意外。マザコンひろしと違ってつよしはお母さんと遊んだりしないと思ってた。」
「別に、母さん最近暇らしくて可哀想だから一緒に遊んであげてるだけだし。」
「だれがマザコンだって?」
「ひろし。え?って言うか暇そうにしてても声かけたら邪魔って言われない?」
「は?そんな母親いるの?ひでぇな、それ。」
「いやいや、それは俺がマザコンなんじゃなくて龍が愛されてないんじゃねぇの?」
あ、ボールとり損ねた。
「図星なんだろ。」
 もう頭くるぐらいニヤニヤしたひろしにボールは投げ返さないで体当たりしてやった。
「いったいなぁ!怒るってことは事実だろ!」
「違うもん。ちょっと取れなかっただけじゃん。それを笑うからだよ。」
 全く見当違いな事ばっかり言うひろしを、こないだ星彦の兄ちゃんに教えてもらったプロレス技で締め上げる。
「ギブギブギブギブ!!離せ!!」
「でも、龍さぁ。冗談抜きでお前大丈夫?」
「何が?」
まさかつよしまで見当違いなこと言い出さないよね?というか言い出したら技かける。
「子供邪険に扱う親なんてこの世に五万といるけど、そんなんにろくな親いねぇからさ。」
美夜子ちゃんは確かに駄目なお母さんの部類だとおもう。でもつよしの言い方はなんかカチンと来た。
「大丈夫だもん。美夜子ちゃんだって、小うるさくて駄目駄目だけど僕のこと嫌いじゃないに決まってる。」
「邪魔扱いされてるくせに!つかマジ離せよ!」
「てか母さんのこと名前呼びって本当に大丈夫かよ。それ。」
 つよしの可哀想な人を見るみたいな目とか、まるで自分のマザコンのほうが正常みたいに叫ぶひろしに、なんかよく解んないけどおなかの辺りがもやもやするから思いっきりひろしを締め上げた。
「うっさいな!とにかく美夜子ちゃんは僕のこと嫌いじゃないの!僕が美夜子ちゃんのこと嫌いなの!」
「いてぇって!どっちでもいいから離せー!!」



別に僕は美夜子ちゃんに愛されてない可哀想な子でも、お母さんの愛に飢えた子供でもない!美夜子ちゃんを嫌ってるのは僕で、美夜子ちゃんは僕のことを嫌ってなんかない。僕が美夜子ちゃんを嫌いなのはいいけど、美夜子ちゃんが僕のこと嫌いなのはなんかヤダ。
僕だって美夜子ちゃんと遊ぶくらい出来るから!!
と、つよしとひろしに宣言したはいいけど、美夜子ちゃんと遊ぶって何やったらいいんだろ?ひろしみたいにトランプでいいかなっても思うけど、美夜子ちゃん、トランプなんか持ってなさそう。僕だってトランプなんか持ってないし・・・。かと言って浦葉さんに聞いてもなんか変な勘違いされてニヤニヤされそうだし。でもテレビゲームなんか美夜子ちゃん解んなそう。っていうか最終的に負けてゲーム機壊しそう。
「美夜子ちゃん!モンスターゲームやろ!!」
もう、全然思いつかないから最終手段。大体トランプみたいなもんだし、さすがに美夜子ちゃんでも出来るでしょ。
「・・・モンスターゲームってあれか?あのお前の集めてる花札みたいなやつ。」
もう、全身の力が抜けた。駄目だ、花札とか言ってる。もうこのままここで転びたいくらい全身の力が抜けた、って言うか花札っていつの時代?ルール教えたら分かるかな・・・?
「ルール教えてあげるから一緒やろ。デッキも僕の貸したげる。」
なんか美夜子ちゃんが頼りなさげに頷いた。