小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かいごさぶらい
かいごさぶらい
novelistID. 16488
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

GHQと撃剣(後編)

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「私は今夜こちらに泊まります。明日お会いしましょう」渡辺と挨拶を交わして、下妻は補給廠を出た。上等兵の待つ、カフェへ急いだ。翌日、二人は、昼前に補給廠へ出向いた。既に、ラルコ軍曹やその部下10数人と渡辺庄一らが待っていた。下妻と上等兵は、昨日の洋館で待つように言われた。玄関にはラルコの部下が二人、歩哨に立った。クリーフは来ていない。(賢い男だ、何かあっても部下達が遊びでやったことになる)。



「少尉殿、お手帳を預からせてもらえませんか?自分に考えがあります」と、渡辺上等兵が。手帳は、横流しの取引を克明に記録したものだ。



「うん、何か上手い手立てでもあるのか?」重慶で生死を共にした。渡辺上等兵は、下妻少尉が、突撃敢行時、いつも先頭に立ち「生き残れると思え、生きろー!、つづけーっ!」の声を幾度も聞いている。終戦直後の重慶で、武装解除を拒否、国民軍に下妻小隊は包囲された。夜が明けたら、小隊は木っ端微塵だ。夜陰に乗じ、重慶脱出を決した下妻は、部下を集め「よく聞け、戦争は終わった、死ぬな!」とだけ訓示。



「行くぞ、離れるなよ、生き残ることだけ考えろ、生きろーっ!」と叫んで、帳の闇へ先陣をきった。部下達は腹の中で(少尉殿を死なせるな)と、思いながら、必死で後を追い窮地を脱した。(下妻率いる小隊は、この言葉で生き残った)渡辺源一郎上等兵はそう思っている。



「自分に任せて下さい、少尉殿は、、、」渡辺は下妻の耳に。



「分かった、君に任せるよ。君の叔父君にこれ以上迷惑はかけられないが、、、」下妻は頷き、腹帯に隠し持っていた茶色の手帳を取り出し、渡辺上等兵に渡した。重慶での脱出戦を想い浮かべていた。渡辺上等兵が、殿を務め、血刀をぶら下げて、2時間ほど遅れて合流し「総員無事でありますかっ!?」と、聞いたことを。(追っ手を食止めてくれたのか、たいした奴だ)。中国各地で、日本軍が武装解除した途端に、農民から暴行を受け、撲殺される等の噂を耳にしていた。



「シモッ、!」ラルコが呼びにきた。裏庭には、大小、二張りのテント、中に長椅子や簡素なテーブルがしつらえてあった。小さいほうのテントの中で、長椅子に座り使用人らしき二人の男と、渡辺庄一が待っていた。



「下妻さん、こちらへ」立ち上がり、庄一が手招きする。隣の大きなテントには、ラルコの部下10数人や非番の米兵が屯していた。軽機関銃を装備している。ラルコが、部下達に身振り手振りで盛んに何かを言っている。怒鳴りあっているようにも聞こえる。



「これは、ゲームだ、と注意してるんですよ」そ~っと、渡辺庄一が下妻に教えた。上等兵が上着脱いで、庄一に預けた。下妻から預かった手帳を包み込んでいる。受け取った庄一が、使用人に。



「準備しなさい」と指示。二人の男が動いた。高さ50センチ程の囲碁版のような、木製の台を運びこみ、その台を白布を覆い、一個の旧日本軍の古びた鉄カブトを載せ、後ろの壁に紅白の幔幕を貼り付ける、などの準備をし始めた。隣のテントでは、ラルコの部下達や米兵が数振りの刀を手にとって振り回している。



「あいつらも、試斬をやるんですか?」怪訝の表情を浮かべ、下妻が訊ねた。ラルコの部下の顔は覚えている。皆、ラルコ軍曹を慕っているようだ。取引の時、彼等の隙のない行動は、小隊を率いた下妻にも良くわかる。(ラルコと、事を構えることだけは、避けたい)そう願いながら、続けてきたのだ。



「はい、ラルコさんが、ゲームなら、フェアでやるようにと、強く中尉さんに申し入れたそうです」



「そうですか~」下妻は、ラルコの心中を察した。(こんな、バカなゲームと思ったが、奴らも故郷へ帰れるんだ、ラルコもその部下達も、、、)ふと、下妻は思った。



「準備が整うまで、ゆっくりして下さい」庄一は、ラルコに挨拶し、何処かへ行ってしまった。入れ替わるように、ラルコ軍曹が、レスラーのような体躯をした部下を一人連れて、下妻らのテントへやって来た。



「シモ!、こっちは、このカービー伍長がやる、先にやらせてくれ、それでいいな」カービー伍長は、意外にも笑顔で握手を求めてきた。



「ドモ、ヨロシクネ」分厚い手だ。下妻は握手に応え。



「こちらこそ、よろしくお願いします」と、二人に向かって敬礼した。いつの間にか、庭やテントの周りに非番らしい米兵の人囲いができていた。数人のMPも混じっている。下妻は油断なく、それらを見やった(やはりな)。ラルコの部下が、ヘルメットを入れ物代わりに手に持ち、集まった囲いの中を歩き回っている。賭けが始まったのだ。



「上等兵、見ろよ」下妻が、その様子を顎で。



「はい、ゲームなら楽しませてやりましょう」と、上等兵が苦笑する。ざわめく、囲いの中を縫うようにして、渡辺庄一が戻って来た。ラルコに何か言って、下妻らのテントへ。



「用意ができたようですね」紅白の幔幕を背にし、白布で覆われた台上に、古びた日本軍の鉄カブトが載せられている。庄一が上等兵に風呂敷包みを手渡す。ラルコが機銃を揺すりあげながら、少し険しい表情でやってきて。



「シモーッ!これはゲームだ、忘れるな!」



「ラルコさん、分かってるよ」ラルコの背中に声を返した。しばらくして、ラルコが囲いの米兵達に向かって大声を上げた。上等兵は叔父が用意した、胴着に着替えていた。(うん、見よい姿だ)と、下妻は上等兵の着替えを眺めていた。



「ヒュー、ヒュー、ゴーォ、ゴーォ!!」周りの米兵が拳を突き出し、囃したてる。早く始めろ、と言わんばかりだ。押されて、ラルコが。



「シモーッ!、はじめるぞー!」と、両手を口に当て怒鳴った。ラルコが首を振って合図すると、レスラーのようなカービーが、大太刀を肩に担ぐようにして出てきた。カブトの前で、仁王立ちし、左足を前にして、狙いをつけるように、何度もカブトに刀身を当てる仕草をみせた。反動をつけ、大きく頭上で振り上げた刀を、右足を一気に踏み出し、斧を打ち下ろすような恰好で、刀身をカブトに叩きつけた。



「ガシーッ!」鈍い金属音。刀身は大きく左へ曲がり、鉄カブトは台でバウンドするように、跳ね上がった。刃が数㎝カブトを噛んでいた。カービーは勢い余って、台に衝突、その上に乗っかるように倒れこんだ。カービーはカブトに食い込んだ刀を、喚きながら地面に叩きつけた。見学していた、米兵達がどよめき、騒然となった。庄一の使用人が直ぐさま、台を整え、新たに鉄カブトを用意した。ラルコの合図で、数人の部下が素早く動き、人囲いから出てこようとした米兵達を、怒鳴りながら押しやった。



「よし、上等兵、行けっ!」渡辺上等兵は叔父の庄一から、渡された刀を改めもせず、受け取った。上等兵は、真っ白な筒袖の上着に馬乗り袴をつけ、立礼し帯刀、台の前へ悠然と進み出た。その姿に、騒然としていた人囲が、飲み込まれた。渡辺上等兵は、ゆっくり体を右に傾け、抜刀。