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新しい世界と言うのなら……

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秋色の夕昏は心を穏やかにする。
 俺は黙って屋上で彼女を待つだけだ。

――彼女は俺を売った。

いとも簡単にホイホイと集団にエサのごとくネタを投げ打った。
 そして彼女は敵になった。
 俺はその時に、悲痛の針を全身に受けた。彼女こそは味方してくれるかと思っていたのに、俺はやはり玩具でしかなかったのか。積み上げてきたものは友情でもなく愛情でも・・・・・・じゃあ何だったろう?
偽物の何かを積み上げたのか俺はただ単に道具にされたのか。
彼女の黒い部分は前々からはっきりと見えていた、分かっていた。
彼女の器用さや感覚のキレは常人にはない何かを持ってると俺は悟っていたし。彼女を敵に回すことは間違いなく集団の刃が俺に降り注ぐことが予測できたからだ。それは予感ではすまなかった。彼女自身を怒らせてもそうなるとなぜか頭の中で理解していた。下手な動きはどうにもならない。
息苦しさが全身に立ち込めむせかえる。去年の10月から直らない症状、胃腸の調子が悪いのだ。それに加えこの惨状が降りかかり心がずーんという音をたててまるで錘が心臓の上に乗ってるような状態になる。最後の頼みの綱を失った俺はどうしたと思う? 何もしない事が正しいの? 予防線を張ることしかできなかった。そしてその防衛線も塵となった。彼女は俺を裏切り俺は涙も流せない攻撃の雨に耐える石になるしかなかった。
現代の魔女と言うのは大げさだろうか?
しかし俺にはそれ以外に例えようがなかった。
なぜかたったさっきまで一緒にいたはずの女が敵になっていて俺の心を鷲づかみにして離そうとしない。
それは、彼女に慕情があったのか? その魔女は直接心に揺さぶりをかけてくる。
「ほらほら、お前は俺の言うとおりに動いてればいいんだ」
 そんな声が今にも聞こえてきそうで震える。
俺が怖かったのは決して周囲の野郎達の目ではない。彼女の行動だ。
普通は顔をみることさえなくなると言うのに、毎日顔を逢わすことは俺にとってはどうだったか? 彼女がもつ仕掛けナイフは的確に俺の心臓を捉えて貫いてくる、幾度も幾度も。だが内部に起きてることは外部からはどうしようもない。もがきにもがく、それだけだ。
 毎日会うたび彼女はぐさりぐさり、俺の心を貫く。痛い痛い、泣きたいのに泣きたいのに
――なんで涙がでないのか? 変わりに出たものは奇妙な笑いだった。

 彼女は持てるだけ道具を隠し持っている、それは女としての武器、それに加え1ミリも間違えない精密作業、創造力、発想性、相手の性格、行動原理の予測・・・・・・これにおいては叶わないだろう。前もってそういった能力をみていたからこそ余計に畏怖していたのかもしれない。まあ俺が認めていたのはそういった俺にないものをもっていたからだ。俺が持ってる武器? 多少の拳とあとは忍耐力と精神だけだ。それをうまく駆使して立っているのがやっとだ。もろに受けないように受け流しをしているだけでやっと・・・・・・。つまりは早期に白旗を挙げるしか選択肢はなかった。
しかし、白旗を挙げたところで失ったものは何も戻らなかった。
 結局、俺が得たものは教訓の固まりだった。復習なんて考えはしなかった。傷を深くするだけだった。思い出は大切に残しておきたい、まだそう思ってるからこそ・・・・・・そして決別しなくてはならなかったのは古い自分だった。甘えを取り払うきっかけにはなってくれたが、お金で買えない「大切な何か」はすべて燃えるゴミにいったまま拾えなくなった。残ったのは汚名と恥と使いものにならない何かだった。俺は思った、女性に友情関係なんて成り立ちはしない。不思議なのはなぜか未だにでない涙だ。この世界が全て偽りでできていると頭では理解していたのか? それとも惨状に対して悲しみの涙がでないのは自分の感情、悲しみが偽りだから? いやそんなことはない。
 ただなんとなく空しさが心にあって、どんなにもどんなにも器に水を注いでも注いでも満たされないような穴があいた器のような、そんな心だった。彼女は俺の氷付けに固めて形状を保っていたものに火を投げ入れ元がなにかもわからないほどに溶かしてしまった。
 俺はもう昔の世界には戻れなかった。詩は俺に現実を教え失望を促し、明るい朝は毎日訪れず暗い真夜中が毎日続いていた。暗い世界にいる自分はまず自分そのものについて振り返る。自分の過ち、そこから出す改善の余地。そんなことを繰り返し繰り返し自問自答をするが所詮は主観、答えなどでない。
「私は他人にあわせるだけだわ。」
そんなことを彼女は俺に言った。
 しかし、俺は知っている。自主性が強い人間が合わせ鏡のように人に受容できたりはしないことを。自分の翼を広げて飛ぶ鳥のように自由になることはできてやしない。しかし、そこをうまくこなさせてしまうのが彼女なのかもしれない。いつになく久しぶりに見た時も飄々とした態度で何もなかったかのような素振りだ。
まあでも人間は常に全能ではない。それは彼女の手が物語っているだろう。それについてはあまり深く触れないが・・・・・・。
がらがらがらがら
錆び付いた屋上の扉を女とは思えないような豪快な作法であけてくる。
「きてやったわよ」
相変わらずなぶっきらぼうな少女がそこにはいた。まさか来るとは思わなかった。いや、彼女なら普通に約束をすっぽかすだろう。
 未だに守ってない約束があるのに気づかない。そういった細かい所に気づかないのも友情なんてもんがなかったことを物語ってるのだが。
「お前、俺が白い服が好きと知っていて着てきたのか?」
 いきなりの的外れな発言に彼女は嫌悪か怪訝か眉をひそめる。
「お前さぁ・・・・・・きもいぞ?」
 言われて当然、そんなテンプレの会話は続かない。
「まぁ別にそんなのはいいんだ。」
 俺はここで彼女に苛立ちをそのままぶつければいいのか? そんなことをしたって無意味だとわかっていて。でも言わなきゃいけないことはある。
「とりあえず、謝る。ごめん」
「は?」
 彼女はいきなり何をいいだすのか今にも怒り出すんじゃないかって顔をしている。女性がこんな顔するとか放送禁止レベルだが。
「いやお前の話でバカみたいに笑っちまったことだ。お前も俺のことをすごい形相で見てたのを覚えてる。あれさ、本当は笑ってたんじゃないんだ。」
「じゃあなんだっつーんだ?」
「本当は・・・・・・」
――本当は泣きたかったんだ。
「俺達はお互いをしらなすぎた。お互いにすべきじゃないことをした」
「そんな話なら私はとっととかえりたいんだが?」
 彼女はこういうやつだ。過去を振り返らない。でもそれじゃ人は成長しない。
「まあまてよ。俺が言いたいのはそもそもそんなことじゃない」
心に溜め込んでいたのは別に罵倒とか説教とかそんなくだらない事ではない。二年も友達でいたんだ。言っておかなきゃならないことがある。
「あれだ、いろいろ勉強になった。ありがとう。なんかお前に言うのはシャクだし」
――湿っぽいのが嫌いなお前には悪いが素でいかしてもらうわ」
 こいつは嫌いにはなれない。頭の中がそう言っていた。
「ああそう・・・・・・」
 彼女は相槌をうつだけだった。
「んじゃそれだけだから」