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I hope so,,,

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I hope so,,,


「浩介、お前に犬井から用事があるからって・・・・・・」
戸惑い気味の衣川からそう言われたが、俺は乗り気じゃないまま廊下へ向かった。
「なに?」
「うん、塾の宿題忘れたから見せてほしいんだ」
「ああ、それぐらいなら」
 そんな簡潔な言葉を言ってとりあえず机に取りに向かう。
「私さ、この問題よくわからないんだよね。」
「ああ、ごめん。俺もよく分からない。答え写しただけだから」
 そんな適当な言葉で流して教室に戻る。
 肩越しに「ちょっと・・・」というまだ用件があるような言い様だったが振り返らない。
「お前、バカだな。明らかにあの子お前に気があるぞ?」
 衣川は俺の過去を知らずそんな事を口走る。
「そう? でもどうせ付き合ったって面白くないよ。あの子いきなり勉強の話してきただろ」
「それはお前が勉強でクラストップというのが有名だからだろ?」
「それじゃだめだ」
「はぁ。お前は何言ってるんだ?」
 やれやれといわんばかりに両手の掌を上にむける衣川。
「あのな。過去をいちいちひけらかしたいわけじゃないんだ。見てくれがいいだけでどうせ金目当てばかりだし」
「おいおい。よくクラス一イケメンの俺の前でそんな話できるよな」
 サッカー部屈指のエースは少し気分悪くしたのか声のトーンが不調な中、浩介は続ける。
「多分、俺が好きになるような女性はそんな女性じゃないんだ」
「は? お前は天使とでも付き合いたいのか? 女にそんな理想求めんなよ」
「いいや違う。ただ俺に合った女を探したいだけだ」
「はぁ・・・まぁ、それが理想化した女でなけりゃいけるかもな。お前が好むような女なんてこの世に存在するのか」
 呆れ顔の衣川は机に足をのっけて椅子に腰をかけた状態で椅子を揺らしている。
「するからいってるんだよ」
「おい、好きなやついるのかよ。誰だよ、誰だよ?」
 椅子からこけた体の状態を起して問い詰める。
「・・・・・・なんで俺が好きな女性にそんな興味もつんだよ? 人のコイバナってみんな好きだよな」
「ちげーよ。お前が好きとかいう女が見てみたいだけだよ」
「・・・・・・一之瀬」
「はぁ、随分とまあ際どいやつを選ぶね」
 一之瀬といえば分からないやつは学年中にいない。特別優れた外見というわけでもないが、目立った行動ばかりしてる人だ。よく言えば活発で男友達も多く・・・・・・勉強は恐ろしいほどできる。成績オール5のバケモノだ。なぜか女さえも怖がってしまうから、女友達も鈴木と戸羽しかいない。(ちなみに鈴木も戸羽もクラス人気の1番と2番だ)あるとき、英語の授業で死神という英単語を習ったのであだ名がリッパーと呼ばれている。
「リッパーねぇ。まあお前と勉強面は互角か」
「いや、彼女のほうが上だ」
「は? お前学年一位だろ?」
「違う、彼女は狙って2位にしてる。」
「お前バカ? どうすればそんなことできるんだよ?」
「彼女だからできるんだろ? あと学年10位のお前に言われたくない」
「なんでそんなことしてるんだよ?」
「それが分からないようじゃ俺の事、お前もわかってないんだよ」
「おい、一之瀬の話しててなんでお前の話になる?」
 疑問を抱えたままの衣川を後にして僕はいつもの図書館に行った。


           ※



「一之瀬、またやってくれたな。わざとあんなことして」
 本を探しているのか歩き回る素振りをする一之瀬がそこにいた。
「ああ、そのことね。だって仕方ないじゃない。記号問題のワとフを書き間違えて一点差で2位になった。ただそれだけのことじゃない?」
「だからそれが意図的だっていってんだよ。俺は納得いかない。それが正解してたら2点あがってお前がトップじゃないか」
「・・・・・・そんなの偶然よ。」
「じゃあまたその前の中間テストで社会の問題で答えが『ノルマントン号』のところを『ドロッピングメリー号』とか書いたじゃないか。その問題で先生怒らせて説明問題があきらかに俺よりできてたはずなのに10点満点で7点しかつかなかったじゃないか。それで俺がまたトップ、お前が2番だ」
「そんなこと仕方ないじゃない。あの時はマンガにはまってたのよ」
 これだから天才は困る。俺は一日のほとんどを勉強に費やしてる秀才型タイプなんだがこいつはマンガを読む時間もあるのか。
「・・・・・・けど俺もこのマンガ結構買ってるんだよな」
「面白いよね。『金で済むなら弁護士は要らない』ってまんまじゃん! ってつっこみいれたいよね」
「ああ、あそこで一発お前が犯人だ、って言ってやりたいところだけど・・・・・・」
 そうやって他愛もない言葉を並べてはいつも重要な事がはぐらかされてしまうが、それがどうでもよくなるくらい楽しかった。
そんなように図書館で話をして、バカ騒ぎして普通の高校生達を俺達はやっている。お互いに辛い過去があり、達成せねばならない未来があるというのに――。
「私は親から家事を継ぐために薬剤師にならなくちゃならないんだ。ガーデニングプランナーに本当はなりたいのに」
 そんなことを彼女は言ってたが、俺もそんな似たような境遇だ。夫婦が弁護士だからお前も弁護士になれとか言われてしまった。
 そんな親達の願望に動かされて僕たちは勉強が、出来なくてはならないんだ。
「ふふふ。もう私たち、駆け落ちしない?」
「面白いね。アメリカがいいな。」
「自由の女神かぁ。私はイギリスかな。ピーターラビットがいそうな田園風景を目の前にして毎日のんびり暮らしたい」
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」
「それちょっと安直だな。私なら、こうするよ」
 彼女と俺の関係はこうして友達関係のままが続いていた。でもいつだったか、彼女が図書館に来ない日が続いた。
俺は毎日のように司法試験の一次試験の勉強と並行して彼女に想いを伝えようとラブレターを書こうとした。
しかし机に向かってもなにから一体書いたらいいのか。
――俺達にそんな権利はあるのか?
 
仮に・・・・・・付き合えたとして、どうするんだ? ずっと親たちに隠し通して、大学もどうせ俺達は別の大学にいくだろうし、続くわけが・・・・・・ないんじゃないか? 
そんな下らない葛藤が俺の脳内に響く。
「なにを難しい顔をしてるの? 分からない問題? 私に任せなさい」
 一之瀬が身を乗り出して覗き込む。
 俺は、慌てて紙をぐしゃぐしゃにまるめてポケットにしまいこむ・・・・・・書き直し確定だ。
「そんなに見せると困るもの? なに? ラブレター?」
 はい、そうですと言いたいが間が悪い、というか一之瀬は多分、分かってて聞いてるんだろう。
――俺を、試してるんじゃないか?
 そんな勘繰りと逆に気づいてほしいという気持ちが交差する。
「そんな無駄な事考えてるなら遊びにいかない?」
「無駄? 無駄かも・・・・・・うん、遊びにいこうか」
 そうやってラブレターの件はいつのまにか雲散霧消していた。
僕たちは高校生という限られた中で遊びにいくことを繰り返した。お互いに好意をもっていたにも関わらずそれを口にしなかった。
作品名:I hope so,,, 作家名:。。