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タクシーの運転手 第五回

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「いやはや、どうもどうも」
 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。
「どこに行かれますか?」
 彼は客の男性に問いかけた。
「川崎病院に向かってください」
「はい、わかりました」
 彼はハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
「そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」
「普通の会社員ですよ」
 彼はスーツを着ていた。ぴしっと着こなしていた。
「川崎病院にはどんなご用件が?」
 時間は14時過ぎだった。途中で会社を出てきたのだろうか。
「実は、妻の出産に立ち会うことになりまして…」
 彼は頭をかきながら答えた。
「そうですか。それはおめでたいことですね」
 運転手は微笑みながら言った。
「あ、どうもありがとうございます」
 軽くお辞儀をした。
「出産に立ち会うとは、抵抗はなかったんですか?」
「いや~、抵抗ありましたね。でも、『そばにいてほしい』と言われてしまってね。ははっ…」
 彼は苦笑いしながら言った。やはり立ち会うのは少し嫌なようだ。
「少し緊張してるんですよね。情けないことに」
 力なさそうに彼は言った。
「そうですか。確かに、結構衝撃的なものですからね」
「運転手さんも経験が?」
「昔の話ですけどね」
 ははっ短く笑って答えた。