10分間ストーリー
橋、エルフ耳、サングラス
この街の東側には巨大な橋がある。大きな湖の上にできているこの街の唯一の陸への移動機関だ。
その橋の上に、怪しい人影が一つ。
黒いローブを全身にまとい、サングラスをかけた、おそらくは男と思われるものの影。この時期はさして寒いわけでもないのに、頭全体を布で覆っているのもひどく気になる。周りにいる人々もいぶかしげだ。
もっとも、男はそんなことを気にした風もなく、当然のように街に向かってその橋を渡り続ける。長い橋を渡り、男は街の門の前へと辿り着いた。
「おい、そこの! 街に入るなら身分書を出せ。その暑苦しい布を全部取ってな」
問の前にいる衛兵が男に言う。男はそれを聞いてふっと笑った。
「何を笑っている。はやく……」
「その必要はない」
衛兵がさらに言い募ろうとすると、それよりも先に男が口を開いた。
「何? 許可がなければここより先には……」
「貴様らに許可をもらう必要もない。どうせ俺は……」
一気に自身がまとっていたローブと布をはぎ取る。先ほどとは打って変わって動きやすそうな服装。手には一本のナイフ。
そして、耳の先はとがっていた。
「貴様っ…! まさか、える……」
血が飛び散り、悲鳴が聞こえた。
男は周囲の様子など気にも留めずに、もう一人いた別の衛兵を同じ目に合わせた。人々が逃げ惑う声が耳を打つ。
「なぜ……える…ふ……が……」
死にかけの声で衛兵が問いかける。それは使命感か、好奇心か。
「何故? 何故だと?」
男は笑った。ナイフからは赤い液体が落ちる。
「貴様らが俺らにしたことと同じことをしただけだ」
エルフ薬の最生産都市、壊滅。
――――――以下十分外――――――
灰色の紙に大きくその文字が躍ったのは、その翌日のことだった。
エルフの体の一部から作られる薬を特産品としていたその街は、一夜にしてたった一人のエルフに壊滅させられたのだ。