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Dearest

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―――とある雨のふる日、ぼくはすてられた。


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しんぶんしをしいただけの、小さなだんぼーる。
その中にぼくは入れられた。

ご主人は、ぼくの入ったそのはこを持って、車にのって家を出た。


【おでかけ?ねぇねぇおでかけ?】


じょしゅせきではしゃぐぼくに、
ご主人はかなしいかおをしてわらった。


「とおいところに行くんだよ。」

【・・・?】


りょこうかな?
それにしても、ご主人にもつが小さいよ?
ねぇねぇご主人、忘れものしてない?

ふしぎそうにぼくがうしろのシートを見ていると、
ご主人はまたかなしそうにわらう。


「ごめんね、私は、一緒に行けないの。」


ふわり、とご主人がぼくのあたまをなでる。
ぼくのだいすきな手だ。

かなしそうなご主人がしんぱいで、
ぼくはご主人の手をぺろりとなめた。


「大丈夫だよ、私は。ありがとう。」


ご主人は、やっぱりかなしそうにわらう。
そのりゆうがわからなくて、
でも、ぼくはご主人とのおでかけがうれしかった。

車は、ぼくのぜんぜん知らないみちを走る。
どんどんはしって、かえれないくらい遠くまできて、
そこで、ご主人はぼくの入ったダンボールを出した。

雨がぽつぽつふっていて、
ご主人はぼくがぬれないようにカサをおいてくれた。


【どうしたの?ここどこ?ねぇご主人?】

「・・・ごめんね、やさしい人にひろってもらってね。」


ご主人が、もういちどぼくのあたまをなでてくれる。
うれしくて、はなをこすりつけてみたけれど、
ご主人の手はすぐにはなれていってしまう。


「ごめんね、ほんとうにごめんね。・・・・・・バイバイ。」


かなしいかおをしたご主人は、ぼくにそう言ってさっていった。
"ばたん"と車のドアがしまる音がして、
そして、ご主人は行ってしまう。


【まって!ねぇまって!!】


どれだけないても、ご主人は止まってくれなかった。

走っておいかけて、雨で体はべちゃべちゃで、
水たまりにも入って、どろだらけにもなって、
それでもご主人はもどってきてくれなかった。

どれだけいっしょうけんめい走ってもおいつけなくて、
いつしか、ぼくのあしはつかれてフラフラになる。
ご主人の車はもうぜんぜん見えないくらいとおくて、
まわりを見ても、ここがどこだかぜんぜんわからなかった。


【つかれたよ…おなかへったよ…さむいよ…ねぇご主人……】


どこに行ったらいいのかわからなくて、
とりあえず、ご主人のくれたカサのところにもどる。
さむいけど、とりあえず雨にはぬれなくてすむ。

ぼくはダンボールの中で小さく丸まって、
ご主人がおむかえに来てくれるのをずっとまっていた。
何人ものひとがぼくのことを見ていったけれど、ご主人じゃなかった。

すてられたんだ、ときづいて、でも、どうしようもなくて、
ぼくはずっと、そのばしょでまっていた。





『あれ?お前、どうした?』


どれだけ時間がたったんだろう?
つかれたぼくは、いつの間にかねていたみたいだった。

ご主人のおいていったカサをどけて、
1人のニンゲンがぼくのことを見ていた。


【・・・・・・だれ?】

『見るからに捨て犬…だよな。
 こんな雨の日に、寒かっただろうに……。』


おとこのひとなのか、おんなのひとなのか、
パッとみただけだとわからないニンゲンだった。

おとこのひとみたいなかっこうで、
でも、においはおんなのひとのにおいだった。


『うーん、どうしよう………』


ニンゲンは、ぼくをだきあげてなにかなやんでいた。
でもぼくは、なにをなやんでるのか知ってる。

―――ぼくをつれてかえるかどうか、だ。

そして、みんなけっきょくはぼくをおいていく。
このニンゲンの前にぼくをみていった人たちもそうだ。
やさしいふりをして、けっきょくぼくはおいていかれる。


【いいよムリしなくても。どうせすてるんで―――…】

『よしっ、おまえの名前は"そら"だ!』

【え・・・?】


ぼくを高くだきあげて、そのニンゲンはわらう。


『ほら、こんなにキレイに晴れて、虹が出てる。
 雨上がりのキレイな空の下で見つけたから、"そら"!』


知らないうちに、雨はやんでいた。
ぼくはそのことにもまったくきづかなかった。

"よろしくな!"と言ってわらうそのニンゲンは、
雨あがりのそらに負けないくらいまぶしいえがおでぼくを見た。
作品名:Dearest 作家名:ユエ