エイミーとウサギの耳
「なによこれ!どうなってるの!」
さっきまで見えていた森がぼやけています。
ウサギがおもしろそうにあたりを見ているのも、今のエイミーには見えませんでした。
「わぁ、すごい!人げんたちはいつもこんなせかいを見ているのか!」
ウサギがぴょんぴょんととびはねている音が、ウサギの耳から聞こえました。
けれど、とびはねていることはわかりましたが、ウサギの目ではそれが見えません。
エイミーは、かなしくなりました。
せかいがかわってしまったような気がしたのです。
そして、手もとにあるスケッチブックを見て、エイミーはとうとう泣いてしまいました。
「あぁ、この目では絵がかけないわ!」
なんということでしょう。
ウサギの目ではまわりがよく見えないので、自分のかいている絵も見えないのです。
泣きつづけるエイミーを見て、ウサギはエイミーにはなしかけます。
「そんなに泣かないでおくれよ。この目はきみにかえすから」
エイミーとウサギは、交かんした目をもとにもどしました。
「でも、ぼくの耳もかえしてくれないか?それがないと、大すきなうたが上手にうたえないんだ」
エイミーは、耳をウサギにかえしました。
「ごめんなさい。わたし、ウサギさんの気もちをかんがえていなかったわ」
エイミーがウサギにあやまりました。
「耳はかえしてもらったし、すてきなせかいも見れた。ぼくはもうおこってないよ」
ウサギはエイミーをこころよくゆるしてくれました。
「そうだわ!ウサギさん、すこしまっててもらえないかしら?」
エイミーはじめんにすわって、スケッチブックを広げました。
エイミーはスケッチブックに、すらすらと絵をかいていきます。
赤、青、みどり……
まっ白だったかみは、みるみる内にカラフルな絵にかわっていきました。
「できた!」
エイミーはかんせいした絵をやぶりとり、ウサギにわたしました。
「うわぁ、すごい!」
ウサギはとびはねてよろこびました。
「それじゃあぼくは、君にうたをおくろう」
そう言って、ウサギが切りかぶの上に立ちました。
そして大きくいきをすって、うたをうたいます。
ウサギのうたは、しずかな森によくひびきました。
ウサギがうたいおわっておじぎをすると、エイミーははく手をしました。
「すごい、すごいわ!」
エイミーとウサギはおたがいを見つめて、いっしょにわらいだしました。
「ぼくはきみよりも目がわるいけど、この絵がすてきだってことはわかるよ」
「わたしもウサギさんよりも耳がわるいけど、今のうたがすてきだってことはわかるわ」
そのあとふたりは少しはなしました。
「じつは、その絵はウサギさんの耳できいたせかいをかいた絵なのよ」
「じつは、ぼくのうたもきみの目で見たせかいをうたったうたなんだ」
「あら。わたしたち、けっこう気が合いそうじゃない?」
「そうかもね。あん外いい友だちになれそうだ」
はなしている内に日もくれてきたので、ふたりはそれぞれの家へとかえっていきました。
かえり道で、エイミーは考えます。
あしたは、あのもの売りからウサギのおきものをかって、ウサギに見せてあげましょう。
ウサギは目がわるいらしいので、きれいに色をぬってからのほうがいいかもしれません。
エイミーはおきものをもらったウサギのようすをそうぞうして、少しだけわらってしまいました。
作品名:エイミーとウサギの耳 作家名:菅野