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ある勇者と邪王と魔王の話

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 漆黒の鎧を纏う魔の者と、青銅の鎧を纏う聖の者。
 その二つは運命に導かれるまま、宿命の様に、ぶつかり合う。
 場所は結界に護られた、朽ちた城。魔の住処。
 尤も、その結界は既に聖の者に打ち破られているが。
 それでも禍々しさの残るその場で、二つの力はぶつかり続ける。



「…ちっ…ここまでか…」
「…邪王…。今からでもこちら側に来る気は無いか?」
 溜息。
 剣を突きつけられ、動く事も儘ならないダメージを受け、最早後は無い。
 その状況で、軽く手を振りながら、魔の者は答えた。
「あー、無理無理。今更そっちになんぞ行けるかよ。ここで裏切ってそっち行くと、うちの連中皆殺しにされちまうしな。俺は殺していいんで、他は見逃せ。どうせ元の闇の世界に帰るだけだ」
「軽いなー、邪王」
 …空気が問答無用で緩んだ。
 魔は邪王。聖は勇者。
 これまでにも幾度か殺し合いはしているが、決着が着かないままここまで来た。
 二人して生来からの性質なのか、一瞬前まで本気の殺し合いをしていても、終わればこの軽さが常だ。
 台詞の内容はなかなかに重いが。
 しかしそのノリに合わせる様に、勇者も軽く言う。
「ま、いいけどさ。弔い合戦だー、とかで突っ込んでくんじゃね?お前等仲良いもんなー、魔王軍のくせにさー」
「そりゃ長い事この廃墟という名の城に押し込められて共同生活してた運命共同体だからな。情も移るさ。魔物でもな」
「そいつら殺せって?」
「ま、こっちで死んでも、こっちでの器が壊れて元の世界に戻るだけだからな。そんでも多少の痛みは感じるらしいから、出来ればやめてほしいとこだが…まぁ、気にすんな」
「それは正直気が楽だけどさー…」
 魔物達が元々居た世界では、どうやら精神体として存在していたらしいのだ。
 元々がこの世界の生物では無い。だからこそ、勇者は勇者として魔物とそれを率いる魔王を倒す事を決めた。
 色々と個人的な理由もあるのだが、本来生物を殺めるのは、当然だが好きでは無いのだ。
 それは、聖人君子と呼べる様な立派な考えがある訳ではない。が、彼は齢十六の子供だ。
 この歳でそんな行為を嬉々として出来るのであれば、それはただの狂人だろう。
 一方、邪王。
 彼は幼少の頃から魔として教育を受けてきた。
 いや、魔となるべく、残酷に、惨忍に、酷薄に、無慈悲に。全てに恐れられる魔の王になる為の教育を。
 それは負ければそれまでの、戦いに明け暮れるだけの日々。
 ………だった筈なのだが。
「魔王は判断誤ったんだよ。もっと狂気に満ちたの連れてこねーと。家事にハマるデカ野郎と頭ピンクとイマイチ世界征服に興味なさげなチンピラ連中だしよー。しかもどいつもこいつも情ありすぎのな。…ま、俺に戦力割くの嫌なだけだったんだろーが」
 それにあんまりそういう理性ねーのは俺殺しちまうだろーからな、と。
「ああ、あの人勇者の系統嫌いだもんね」
「根暗だもんな」
 言いつつ、にっ、と笑い合う。
 両者共に黒髪、短髪、歳の頃も近いとはいえ。
 二人のそれは、とてもよく似ていた。
 ────と。
「邪王様ぁぁぁ!!!」
「おうふっ!!」
 横手から邪王に突っ込んできたのは獣の耳と尾を持つ娘。
 腹にダイレクトアタック。
 邪王にダメージ追加。
「勇者め!!邪王様を殺させなどしない!!どうしても殺すと言うのならばっ…!!」
ぴくぴく痙攣している邪王を腕の中に抱きつつ、顔を上げた獣娘が勇者を睨む。
「はっ!!これはフラグ!?」
「何のだ!!ていうかやめれ阿呆!!」
 勇者の意味不明な台詞に突っ込むべく邪王復活。
 更には獣娘のこの後の行動が予想出来てしまっている為、そちらにも声を向けるが、
「死ぬ前に私と一発ーーー!!!」
獣娘、にゃうーんとか鳴きながら邪王へと襲い掛かった!!性的な意味で!!
「なんとぉ!!そっちのフラグとは予想外!!」
 勇者が驚きの声を上げる。
 何のフラグだと思ったのかは不明。
「言ってる場合かー!!ていうかやめろマジで!!」
「何故ですか!!私はそんなに魅力無いですか邪王様!!朝の生理現象だってあるのに!!精通だってしてるくせにぃ!!」
「何言ってんだお前は!!ってやめんか!!脱がすなこらー!!」
「うふふ…ここまで弱っていれば抵抗出来ませんよね?」
「俺が知る中で最も悪い顔に!!いやエロイ顔に!?ていうか言いながら下半身に手を持っていくのはやめろぉー!!」
 やられる寸前だった筈だが、邪王は結構元気そうだ。
 本人としては必死の抵抗なのだろうが、見ている方はただのいちゃこきにしか見えない。
 邪王が冷や汗を滝の様に流しながら脱がされかかっている己の衣服を死守していたり、獣娘が獲物を狩る凶悪でそれこそエロエロな顔をしているのを除けば。
 …訂正。どう見ても、普通に襲われている様にしか見えなかった。
 だが勇者は仲いいなぁ、とか思っていただけだったり。
暫くそんな光景を呑気に眺めていたが、一向にその先へ進む様子も無く。やがてその攻防にも飽きたのか、勇者が口を開いた。
「勇者ですが城の空気がピンクです。…あ、頭ピンクてこの人か!!」
「はい正解!!俺を助ける権利をやろう!!寧ろ殺せ!!俺を殺せぇー!!」
「えー、やだよ、そんなことすっとその頭ピンクの人に俺が殺されるよー」
「因みに髪の色は赤です。邪王様酷い!!頭ピンクだなんて!!私はただ邪王様と深く繋がりたいだけなのに…!!心も身体も!!精神的にも物理的にも!!ぶっちゃけヤりたい!!」
「ぶっちゃけんなこの野郎!!肉欲先行じゃねーか!!つーか毎夜の夜這いと毎朝の奇襲で俺の貞操風前の灯火すぎなあの毎日すげー大変だったよ!!」
「えー、勿体ねー。大人しく喰われちゃえば良かったのにー」
「こらそこの勇者!!」
「………そういえば、そこの勇者、もう誰かに喰われてますね」
 ふんふん、と鼻を鳴らしたかと思えば、頭ピンクの獣娘がそう呟いた。
 ちょっと気まずい沈黙が落ちる。
「…しかも複数」
 追撃。
「なんとぉ!!」
 見抜かれた事に再度驚きの声を上げる勇者。こめかにより一筋の汗。心なしか焦っている様だ。
「英雄色を好むってやつか…」
「しみじみ言わないでー!!」
「聞き捨てなりませんわ勇者様!!」
「そうだよ!!そりゃあ一体どういう事だい!?」
「説明して頂こうか、主よ」
「うはーい修羅場キタコレ!!」
 外で待機していた筈の勇者のパーティメンバー達がいつの間にやらそこにいた。
 勇者は混乱している!!
「…パーティ内皆女か…。所謂ハーレムプレイですねわかります」
「わかんなくていいよ!!ていうかこの娘達アレだよ!?国に選ばれた魔法と武道と剣のエキスパートだよ!?俺に選択権無かったし!!大体俺犯られる方だったし!!」
「草食か!!どんな子羊だお前!!」
「今正に犯られようとしてる人に言われたくありませんねこの野郎!!」
因みに魔法使い(お嬢様系ロリ)と武道家(筋肉モリモリな姉御系)と武士(凛々しいお姉さま系)である。
「…パネェ」
「私達も負けてはいられませんね邪王様!!勇者に性で負ける等とは邪なる王の名折れ!!さあ私と一発!!」
「この状況で勃つか!!」