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ソラノコトノハ~Hello World~

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『コトハの、声が聞こえな、くなってしまう前、に私の声が、届いている内に、ちゃんと言っておくわ……。ありがとう、コトハ。あなたの声が聞こえ、たお陰で、私は楽しく、過ごせたわ……幸せな時間だった。ありがとう』
「やめてください……。そんなことを言わないでくださいよ。まだルーラさんと話したいのに……。どうしたら……いいんですか? ルーラさんと話せなくなったら、どうすればいいんですか? 私はルーラさんとしか話せないんですよ!」
 段々と琴葉の声が大きくなっていく。それだけ必死さの表れだった。
『それは違うわコトハ……。ねぇ……今、コトハの、目の前にいる、のは誰?』
 顔を見上げると、そこには勇哉の背中があった。
『そう……。そこに、私はいない……いるのは、キョロスケ。そして、シヅカたちがい、るでしょう。あの頃……あなたの声が初めて聞こえた、頃とは違う、でしょう。キョロスケに話しか、けてみて……』
 琴葉は、ルーラに言われるがままに、
「……む、村上、くん」
「なんだ?」
 勇哉も先ほど語るルーラの声は聞こえている。だが、今はルーラの声よりもハッキリを聞こえる琴葉の声で呼びかけに答えた。
『きっと、キョロスケは答えて、くれる。そして……』
 話しの途中でルーラの声が途切れた。
「ル、ルーラさん……。ルーラさん!」
 うろたえる琴葉に、ルーラが語りたかった言葉の続きを勇哉が代弁した。
「なぁ、小此木……。あいつらにも話しかけてみろよ。話しかけてくれば、オレみたいにみたいに答えてくれるよ。オマエが当てずっぽうで、誰かに言葉を投げかけるよりは確実に答えてくれる奴がここに四人もいる。ルーラの声が聞こえなくても、オマエの声が聞こえるやつは沢山いるんだ。きっと、ルーラは……そう言いたかったと……思う」
 勇哉は琴葉に話しながら、ルーラにも語りかけていた。
『コトハ……。私の声が、聞こえ、てくれている、か分から、ないけど……』
「聞こえているよ。まだ聞こえているよ!」
『私には、もう、コトハの声が、聞こえないの……』
「そんな……ルーラさん……。村上くん! お願い、ルーラさんに呼びかけて、私の言葉を伝えて!」
 琴葉の嘆願をよそに、ルーラは言葉を続ける。
『だから……私の名前、を呼ぶよりも……あなたの周りに、いる人たちの名前を、呼んであげて……』
 何かを言わないといけないのに、何かを言わないといけないと琴葉の心は焦るほど、上手く言葉が生まれなかった。
「小此木。志津香たちの名前を呼んであげてくれ。それをルーラに伝えるから」
 そう言うと勇哉は琴葉の背後に移動し、琴葉の背中をそっと押す。
「ほら、呼んでやれよ……」
 暗闇で辺りが良く見えないが人影は解かる。そこに向かって、自分が持てる小さな勇気を全て絞り出すように、
「本宮くん……。只野さん……。只野さん……」
 名前を呼んだ。
「本宮くん…。只野さん…。只野さん…」
 もう一度、さっきよりも大きな声で。
 最初に動いたのは志津香だった。その後を本宮、穂乃香と続く。静かな足取りで志津香たちが近づいてくる。
 志津香が琴葉の前に立ち、浅く息を吐くと開口一番に、
「帰るなら、一言ぐらい言って帰りなさいよ。おかげで、わざわざ探すハメになったんだからね」
 キッと鋭い志津香の視線を外すために、琴葉は地面の方……下を向いた。すると、志津香は自分の両手で、
「だから、何か言いなさいよ!」
 琴葉の両頬をつねった。
「ひぃたたたっ!」
 志津香的に軽くつねったのだが、琴葉には痛みに悶えるほどだった。穂乃香が止めに入ろうとした瞬間、手を離す。
「小此木さん。あんたの気持ちは分からない訳でもないわ……。あなたみたいな経験……独りだった事が私にもあったから……」
 離した両手を、そのまま志津香がつねって少し赤くなった琴葉の頬を優しく包むように擦る。
「だけど、私は運が良かったかも知れない。引っ越した先にユウがいて、ユウが話しかけてくれたことで、私は独りの時間が短くすんだ……もしユウがいなければ、私はあなたみたいになっていたかも知れない……だからね!」
 志津香は琴葉の目をしっかりと据え、
「私もあなたの声を聞いてあげるわよ」
「只野さん……」
 その言葉が琴葉の心に響き、今まで遠く感じていた二人の距離が短くなった気がした。
「だから……ユウばっかりに話しかけないでよ」
 耳元でボソリと呟く。
「そうだよ。中学の時と違って、もう小此木さんの秘密を知ったから、ありのままを語っても大丈夫よ」
 穂乃香が前出る。そして本宮も。
「うん。気軽に僕たちのクラスに来て呼んでくれても良いよ。ルーラさんの代わりになるとは思えないけど」
 琴葉を取り囲むかのように人の輪が出来ていた。
 琴葉の胸の奥が熱くなる。今まで感じたことが無い温かみ……それが、琴葉の瞳から溢れ出すように涙がこぼれる。
「ほら、小此木さ……うんん。琴葉ちゃん」
 志津香はショルダーカバンからピンクのハンカチを取り出し、優しく涙を拭う。
「これからは私のことを穂乃香と呼んで。苗字だと、私とシヅちゃんで紛らわしいでしょう」
 勇哉はそっと琴葉の肩に触れると、ルーラの声が伝わる。
『コトハと話す、ことが出来なく、ても、あなたの声が、聞こえなくても……私は、コトハのことを忘れ、ない……ありがとう。コトハ』
「ルーラ、さん……」
 また涙がこぼれ、
「ほら泣かないの。高校生なんでしょう!」
「あらあら」
 またかと志津香と穂乃香が琴葉を慰める。
『キョロ、スケ』
(うん?)
『私の言葉は、コトハ、に伝わって、いますか?』
 聞こえてくるルーラの声は、か細く消え去るようだった。
(ああ……。なんとかな)
『そう、ですか……。これで思い、残すことはあ、りません』
(そうか……)
『キョロ、スケ……』
(うん?)
『ありがとう』
 その一言に、勇哉は思わず泣きそうになったが、人前で涙を見せられない男子としての意地なのか、グッと堪えてしまった。そんな勇哉の気持ちを露知らず、本宮が話しかけてきた。
「ところで村上くん。ルーラさんとまだチャネリングは出来ている?」
「あっ、ああ……ギリギリな」
「それじゃ、声が聞こえなくなるまで出来る限り話そう。僕もルーラさんに別れの挨拶をしたいし。シヅちゃんもホノちゃんも、挨拶をしたいだろうし」
 本宮、穂乃香、志津香、そして琴葉。この場にいる全員が、勇哉の背中に手を置き、思い思いに言葉をルーラへと語りかけた。


 五月といえど夜の寒さは身を震わせるほどだった。だが、もうルーラとは話せないと思えば、寒さなんてと耐えた。
 星空を眺め、あの星のどこかにルーラの星があるのかなと志津香が言ったりするもんだから、似合わないと勇哉は鼻で笑ってしまう。
 志津香に後頭部をぶっ叩かれる勇哉をよそに、本宮が一際に大きく白く淡い星を指す。
「もしかして、あの星の周辺にルーラさんの惑星があるかもね」
 琴葉と穂乃香が同時に「どうして」と訊ねる。
「あの星はスピカって言ってね。一つの星に見えるけど連星という星なんだ」
「連星?」