小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ソラノコトノハ~Hello World~

INDEX|27ページ/41ページ|

次のページ前のページ
 

 志津香が教室を戻ろうと廊下を歩いていると、突然、激しい痛みが身体全体に走った。
 頭、足、体のあちらこちらに声にならない謎の痛みが響き、思わずその場に倒れ込んでしまう。
 周りが戸惑っている中、真っ先に声を掛けたのが――
「どうしたんだよ、志津香?」
 勇哉だった。
「ゆ、ユウ……あ、身体が、すごく痛いの……なんで……」
「どこにも怪我をしているようには見えない……ちょっ」
 人目を気にしてか泣くのを我慢をしていたが、あまりの痛みに我慢の限界を超える。次第に志津香の瞳に涙が溢れていた。
 普段見せた事がない苦しむ顔に、ただ事では無いと察知した勇哉は肩を貸し、
「ほ、ほら。歩けるか?」
 志津香を起こしたが、歩ける状態ではなかった。
「たくっ」
 勇哉は志津香を背中に背負った。だが、成長発展期の小学四年生とはいえ筋力はまだ付いておらず、推定三十キロの志津香を背負い移動するのは過酷な労働だった。
 それでも勇哉は職員室の隣にある保健室へと運んでいく。その道中で、痛みは次第に体中を巡り志津香の意識は段々と失っていく。
「大丈夫か! しっかりしろよ!」と、呼びかけてくれている勇哉の声が聞こえなくなった。
 そして志津香は救急車に乗せられて、市内でも一、二番を争うほどの大きな病院、伊河総合病院へと運ばれることになった。
 後々、勇哉から救急車の乗り心地を訊かれたけど、そんな余裕は無かったと、とりあえず叩いておいた。

     ***

 一日ほど意識を失っていたらしく、起きた時はここが何処なのか解からず戸惑ってしまった。
 目が覚めて精密に検査をしたが、志津香の体に何の異常も見つからなかったのだった。挙句には仮病だと疑われてしまう始末。
 しかし身体に痛みがまだ残っていた。だが、最初の頃に比べ、だいぶ和らいでいた。
 そこで志津香は、気分転換と暇つぶしに病院内を歩き回っていると、思い掛けない人とバッタリと出逢った。
「し、静瑠さん」
 いつも優しい表情を浮かべていた静瑠の顔は、少しヤツレていた。
 そんな静瑠も志津香の姿に驚く。
「シヅちゃん。どうして、ここに?」
 それは、志津香も同じだった。
 三ヶ月ぶりに会った懐かしさよりも、病院で再開したことに悪い考えが頭に浮かぶ。
「静瑠さんこそ。なに、どこか悪いの?」
「ううん。私が悪いんじゃないの……。ホノちゃんが……」
「穂乃香が?」
 静瑠は、今にも泣きそうな表情になった。


 静瑠に連れられて入った病室のベッドに穂乃香が眠っていた。首にコルセット、腕や足にギプスが巻かれて。
 志津香が痛みを感じる箇所は、穂乃香がギプスをしている場所と同じだった。
「静瑠さん……穂乃香、どうしたの……」
 穂乃香の痛々しい様子に、志津香の声が震える。
 静瑠さんが話すには、穂乃香が学校の階段から転げ落ち、頭や身体を強打したらしく、こうやって病院に担ぎ込まれたとの事だった。
 頭蓋骨や腕の骨にヒビが入っているが、脳や脳波とかは異常は無いらしい。しかし、一日が経つのに未だ意識は戻っていないのだった。
 静瑠さんが何度も呼びかけても、穂乃香は目を覚まさない。
 時が凍ったような感じがした。
――これは穂乃香?
――それとも私?
 双子だからこそ、まるで自分がそこに横たわっているような感覚だった。
 志津香は、そっと穂乃香の元へ歩み寄り、穂乃香の無傷の右手に触れ……握り締めた。
 何も語らず、ただ優しく。
 志津香に痛みがブリ返してきたが、志津香はその痛みよりも心に痛みを感じていた。
 志津香は、いつか自分が願ったこと――一人の方が良かったと――それが今、訪れようとしていることに何とも言えない畏怖を感じた。
――一人になるって……こんなに辛いの?
 志津香の瞳から涙が溢れた。すると……

「そう……だね……」

 志津香と似た声がした方へ顔を上げると、目の前が霞んでよく見えなかった。目の前には、うっすら瞼を開けた穂乃香が、その瞳で志津香を見つめていた。
「ホノ……」
「おはよう、シヅちゃん……」
「バカ……」
 志津香は、そのまま穂乃香の胸に顔を沈めた。
「シヅちゃん……痛いよ……」
「バカ……」


 その後、木戸という名の医者が言うには、
「もしかしたら……もしかしての話しですが、穂乃香さんの痛みを志津香さんに分けたのではないかと思います。打ち所が悪かったり、骨折でも骨折の痛みでショック死する場合もありますからね。オカルトと思いでしょうが、双子は意思というか精神が、他の人よりも比べて強くリンクしているといいます。でないと、志津香さんの謎の痛みが説明できません。が、こういう仕事柄、霊とか奇跡という非科学的なのも信じるようになってしまいましてね」
 要は、双子ならではの“不思議な力”で、穂乃香の痛みが志津香に分散したおかげで、穂乃香は一命を取り留めたという事らしい。
 説明にならない説明をされたが、現在の医学では説明できないことが自分達の身に起きたのだから、納得しざる得ない。
 しかし、この事は自分達家族だけにしまっておくことに。他人に話せるほどの馬鹿馬鹿しい話しだからだ。
 その後、志津香と穂乃香は一緒の病室に移された。

     ***

「あの日以来だね」
 一言も話さずに別れた日から、こうして穂乃香と話すのは三ヶ月ぶりだった。
 まだ喋ると痛みが走る(その痛みが志津香にも伝わる)が、それでも穂乃香は志津香と話したかった。
「そうね……」
「暫くは元気がなかったみたいだね」
「なんで?」
「シヅちゃんと別れてから、なんか心が重たくて、気分が乗らない日が続いたの……。最初はシヅちゃんがいなくなって寂しいなと思っていたんだけど……」
「私は寂しくは……無かったわよ」
 志津香の言葉に穂乃香は優しく微笑み返す。
「実は私も……。シヅちゃんと離れ離れになっても、会おうと思えばいくらでも会えるし……双子だからなのかな、離れても寂しいという気持ちはなかったの。でも、あの気持ちは……大切な人と離れてしまうことが嫌だなと思う感じ。もしかしたらこれは、私の気持ちじゃなくて……シヅちゃんの気持ちなんじゃないかって」
 ただ黙って、穂乃香が語る内容を聞く。
「暫くは重い気持ちのままだったけど、八月になってからかな。少し心が軽くなったの」
 志津香は、その月日に思い当たることが有った。勇哉と出逢った頃だ。
「その頃、何があったの?」
「別に、何も……」
 視線を逸らす志津香。そんなささやかな仕草にある事を感じ取る穂乃香。
「そう。良い事があったのね」
「う、うっさいわね。良い事じゃないわよ。同じに団地にユウ……村上勇哉という同級生が住んでいるんだけど、そいつが無理やりに遊びに誘ってくるから仕方なく、遊んであげてるのよ」
「そうなんだ。良い友達が出来て良かったね」
「と、友達って言うのかな……」
「ヒロくんと遊び友達だったんだから、その勇哉くんも友達でしょう」
「まぁ……そう、なるのかな……」
 あの頃と同じように話し合っている事に、お互い心地よい安らぎを感じていた。
 今だったらと、穂乃香は訊きたかったことを切り出す。