小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

初めてのクリスマス

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「言いたかないけど、25にもなって、氷室はちょっとおじいさんダイスキすぎると思うんだよね!」

ドン!とこたつの机をたたくぼくを、ふたりのカワイイ弟たちがうんざりした顔でみていた。
ところはぼくのおんぼろアパート。時刻は2035年12月25日、午後6時30分くらい。

ぼくの目の前にいるハルちゃんこと九鬼春彦と、その弟、秋生ちゃんこと九鬼秋夫の2人は、いかにもいまからクリスマスパーティにでますというかんじのりっぱな恰好をしていた。いや、いかにもなにも、ジジツ、ふたりはコレからいっしょにホテルクリスマスディナーを食べにいくおとうさんの時間待ちをしているところなのだが。
ハルちゃんは黒のドレスっぽいワンピース、秋生ちゃんも黒のスーツをきていた。そんな二人に対し、ぼくはジャージの上からどてらという恰好だった。

「いくら外国じゃクリスマスは家族の日だからって、氷室のおじいさんはイギリスだから、とられる心配はないって安心してたのに、まさかよりによって、こんなことになるなんて。」

ふたりはぼくの激白より、今から迎えに来るであろう父親の車の音が気になる様子で、ちらちらと窓の外に視線を投げかけていたが、そんなふたりに構わずぼくはつづけた。

「だいたいね、ぼくだって氷室が普段からおじいさんに超心酔しきってるのはよく知ってたから、ああ、そんな大好きなおじいさんからクリスマスに電話がかかってくるなんてうれしいよね、って最初はいかにもいい顔してたんだよ、彼の手前。 ―――そう、そもそもことの発端は電話だったんだ。イギリスにいるおじいさんから、氷室の携帯に電話がかかってきたんだよ。着信の名前をみたとたん、彼の顔色がかわってさ、彼は電話が切れる事におびえたようにフリップをもどかしげに開けると、通話ボタンを押して言ったんだ。」

『おじいさん…ですか―――?』

「そう受話器に向かって話し掛ける彼の手は、トツゼンの家族からのサプライズが信じられないようにわなわなと喜びにふるえていて、その頬はこれまで一度もみたこともないようなばら色に染まってて、ぼくはそれをみた瞬間、「こーのグラコンめー!」と、後ろからスパコーン!と彼の頭をはたいてやりたくなったけど、実際問題そんなこと氷室に向かって出来るはずもないし、だいたいそんなこと言ったりしたりするのって、いかにも器量がせまいみたいでみっともないじゃないか。事業家で今日はフランス、明日はドイツ、とヨーロッパ中を忙しく飛び回っているおじいさんが、わざわざ日本時間を計算してクリスマスの夜に氷室に電話してきてくれたんだ。そう思えば、そりゃ喜んでる彼の気持ちもわからないでもないし、だいたい彼はプライベートで女の子みたいに長々電話するような性格でもないから、どのみちふたりきりのクリスマスを邪魔されたところで所詮は5分かそこらで終わるだろうと思ってたしさ。なのに、―――――まあ!おじいさん!→メリークリスマスの挨拶→時事っぽい挨拶→で、ああ電話おわるな、と思ってぼくが用意した鍋を台所にとりにいこうとしたところで、受話器をにぎりしめた氷室が言ったんだよ。」

『えっ?!いま日本にいらっしゃってるんですか!?』

「それでその瞬間、たろちゃんは氷室さんの頭の中から存在ごとスッパリ忘れ去られ、部屋においていかれたと、そういうことだね!」

ぼくの言葉を引き継ぐハルちゃんの結論に、ぼくはこみあげる嗚咽をもらすまいとこらえようとしたあと、けっきょく我慢しきれず泣き声をあげた。

「う、ううううううう、うううううううわぁあああああああああああああああああああああああああああああああんん!!!!!!」

「わかんないなぁ。いまの話のどこがそんなにたろちゃんは気にいらないわけ?そりゃ、忘れられちゃったたろちゃんの悲哀もわからないわけでもないけど、でも、氷室さんの一方通行じゃなくてそのおじいちゃんのほうもそんなに氷室さんのこと気にかけてくれるなんていい話じゃない。でも、こんな今の時期に、よく飛行機の席にあきがあったなぁ。」
「…………ぐすん……自家用ジェット機、自分で操縦してきたらしいよ。パイロットの免許もってるんだって。」
「自家用機!パイロットの免許!!わー、かっこいいー!」
「ええー!そんなことないよ!!かっこ悪いよ!全世界的に不景気な世の中、いまどき自家用ジェットなんてはやんないよ!そんなの前世紀の遺物だよ!!!」
「もー、ひがんでる!そこでかっこいいっていえないたろちゃん、かっこわるいよ!」
「うぐっ!…だいたいさ、氷室の前ではぜったい口が裂けてもいえないけど、ブリティッシュロックがスキってかっこわるくない?70年代のブリティッシュロックなんて、聞こえはなんだかかっこいいけど、日本でたとえるなら歌謡曲とか演歌じゃないか!」
「なにいってんの。おじいちゃんなんだからそれで当たり前だろ。もう、今日のたろちゃんのひがみはとどまるところをしらないね。そんなおじいちゃんじゃ、たろちゃんが太刀打ちできなくてトウゼンでしょ。キャラでも財力でも負けてるもん!むしろそんなおじいちゃんに育てられたっていう氷室さんが、たとえたろちゃんの一方的な押しかけにしても、微塵でもたろちゃんのことを気にかけてくれてるって言う今の薄幸を感謝したほうがいいね!!!!」
「……うわぁ――――――――――――――ん!ハルちゃんのバカー!!!!」
「はーちゃん、いいすぎです。ヒトはホントウのことを言われたときがいちばん傷つくっていつもいってるのは、はーちゃんなのにひどいです。それじゃたーちゃんがかわいそうです。」
「秋生ちゃん、ソレぜんぜんフォローになってないけどハグはうれしいよ、ぐすん。そうだよね、ぼくだってぼくなりにクリスマスをもりあげようとおもって氷室の好きなごはん用意してたのに……。」
「ちなみにナニ用意してたの?」
「冷やしおでん。」
「……ああ、氷室さん、猫舌だもんね。でもいいじゃない。おでんなら明日も食べられるでしょ。」
「そうだけど、でもでも、……う、うううう。でもでもでもでも、ううううううううう。」
「ダメだこりゃ。とりあえず、明日の晩、部屋に帰ってきた氷室さんが心配しないよう、連絡はいれといてあげるからね。この汚い部屋で好きなだけいじけてたらいいよ。」
「――――まってハルちゃん、なんで明日の晩?」
「え?だって、ホテルディナー食べにいったんでしょ?フツウそのままホテル泊まるよね?」
「えっ?!まさか、コイビトじゃないんだし、家族でそんな展開になるわけないだろ?」
「どうして?せっかくの家族水入らずなんだよ?そのままホテルに一緒に泊まる方が自然でしょ。ボクたちだってそうだもん。ホテルでご飯の後、お父さんとそのままホテルにお泊りなんだよ。旅行みたいで楽しみだね、秋生ちゃん。」
「はいです。」
「まさか……そんな……氷室にかぎって……」
「氷室さんに限らず、クリスマスは家族の日です!アンダスタン?――――まぁ、可哀相だから、たろちゃんがどうしてもっていうなら、いまからでもこっちにまぜてあげないこともないけど……」
「いやだよ!クリスマスにまで九鬼さんにイヤミ言われたくない!」
作品名:初めてのクリスマス 作家名:最上蜜柑